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帰還



題名:帰還 <競馬シリーズ>
原題:Comeback (1991)
作者:Dick Francis
訳者:菊池 光
発行:早川書房 1992.11.15 初版
価格:\2,000(本体\1,942)

 フランシスが来日して、そのときの日本人の印象が良かったのだろうか (一応インタビューでは日本人フランシス読者の印象が素晴らしかったと答えているけれど)、 この作品の外交官という特殊な主人公は日本から英国へ帰還しつつ、日本の印象を語っている。

 のっけからバイオレンスで幕開けとなるのだが、これは日本からアメリカへ向かうと、かほどに日常は暴力的な彩りを加えてしまうのだよ、というような病めるアメリカの側面の断面図だろうか。

 そして主人公は故国イギリスへ向かうが、ここではさらなるバイオレンスが彼を待ち受けているというわけで、昔の記憶が謎解きの鍵を握っていたりするところやフーダニットの基本的な形は、最近のフランシスが冒険小説からよりミステリー色を強くした観があって、冒険小説ファンには少し寂しいかもしれない。しかし『黄金』あたりと較べると、遥かに舞台となる動物病院の雰囲気が生き生きとしていて、道具として使われる手術室の装置類は、例によって佳境への上昇気流を読者のうちに生じさせてしまう。

 いろいろ細かい点での好悪の感情はあってもフランシスはやはり最低限の面白さを失っていないし、人間描写は、パターン化しているとは言え、相変わらず読み応えがある。

 また、この小説では外交官という主人公の職業が、直接的にはミステリーにはつながらないのだが、謎解きをするに当たって様々な人間たちを観察し、うまく対処するという職業的な特技が武器になる。このあたりもフランシス節と言えるのではではないだろうか。

(1994.05.09)