直線



題名:直線
原題:STRAIGHT (1990)
作者:DICK FRANCIS
訳者:菊池光
発行:早川書房 1990.11.15 初版
価格:\2,000(本体\1,942)

 フランシスが戻って来たな。これが読み出しからの感想。そして読後、フランシスがやはり元のスタイルに戻ったという印象の本書である。よかった、ほっ!  フランシスは実験的に本格ミステリーなぞに傾かないで、自分の地道な路線を歩んでいればいい作家なのよ、ほんと。

 冒頭から兄の事故死で物語は始まる。ちなみにぼくは、弟を突然の事故死で亡くしているのだが、この作品の兄の事故死に関する弟の心情描写はすごいものを感じてしまった。ほぼリアルに自分の弟を失くしたときの心情を再現されている思いがして、ぐさぐさと突き刺さる兄弟の深い愛情とも言えないような、しかし肉親であるゆえの傷みを味わわされてしまうのだ。

 死んでみると、生きていた兄をほとんど知らないで過ごしていた自分に改めて気づく。その兄の足跡を辿る一本の道がはっきりと見えている、フランシスならではのシンプルな冒険小説だ。個性的な援助者であり沈黙をこよなく愛するブラッドは、ひさびさに見る魅力的な脇役だし……。フランシスはこういう信頼のおける伴侶を描くとピカイチであるなあ。

 またそういうストレイトな生き方の主人公たちに、ひん曲がった悪党たちが無闇な攻撃が仕掛けられる。本のタイトルがこの作品の見所を示しているし、こうしたストレイトさこそが、ぼくのフランシスに求めるひとつの要である。

(1994.03.25)
最終更新:2007年07月15日 23:31