連闘


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題名:連闘
原題:BOLT (1986)
作者:DICK FRANCIS
訳者:菊池光
発行:ハヤカワ文庫HM 1992.10.15 初刷
価格:\580(本体\563)

 大体「貴族」なんていう字面だけで、ぼくのような庶民は、けっ! とばかりの苛立ち感情が芽生えてしまうものなのだけど、不思議と『侵入』『連闘』で主人公騎手の良き場主をやってくれているカシリア王女には、そういう逆差別的な感情が湧き出してはこない。それほど魅力ある中年女性であるのが何故なのかはよくわからない。少なくとも日本の都心あたりに溢れる若い舌足らずなエセお嬢様なんかに比べたら、こういうヨーロッパの世間知らずの王女様の方が、まだしも人間探求を普通にしているではないか、などと、少し驚いたりしている。

 まあ、そういう魅力的な王女様に果敢なナイトとして、騎手キット・フィールディングが活躍する、第二話。競馬シリーズでの同人物主人公ものは、『大穴』『利腕』のシド・ハーレー以外では、このキットだけだが、シド・シリーズが、拷問による恐怖と、男の誇りとの葛藤を激しく描いたのに対し、キットのシリーズは知略の闘い二番勝負と言ったところ。

 シド・シリーズの葛藤のすさまじさには遠く及ぶべきもないが、かつて単細胞さんが言われていた、敵への準備不足とか攻撃心が足りない、手をつくさない、といった、初期作品群に見られる消極性は、ことキット・シリーズ二作に関しては、全く見られず、むしろキットはそのようなクレームに応えて造形した主人公ではないかと思われる。

 それほど危険の可能性に対して過敏であり、準備を怠らない。こういう主人公がいいのか、シドのような後手後手で苦しむ主人公の克己こそがいいのか、ぼくには何とも言えない。ただ、フランシスの小説としての評価は、後者の方が遥かに高いのではないかと思う。ぼく自身の評価も同等であるし……。

 ところでこの作品の悪役は、『配当』の悪人に似た感じの、二代目ボンボン悪党であるから、やることは恐ろしく直線的で乱暴、しかし後先を考えないため、危険ではあるが罠をかけやすい、と言ったところで、『奪回』の誘拐犯などに較べると数段落ちると思う。そういえば『配当』後半の弟の方のドラマでは、同じような悪役に同じような攻撃型主人公を配していたなあ。

 ここのところフランシスの主人公の行動様式が、いくつかのバリエーションを選択しているのは、もう確実であると思う。フランシスの場合、さて変化が世に受けられるものであるのかどうなのか? 興味あるところだ。

(1994.02.20)