ディック・フランシス

<競馬シリーズ>はほんとうは全然シリーズなどではない。出版社がどうして<競馬シリーズ>という名をディック・フランシスのすべての作品に冠したのか、事情は知らない。だけどどれもが独立した作品であり、二三の例を除けば同じキャラクターが登場するわけでもない。むしろほとんどが全然別の物語だ。

 なのになぜ<競馬シリーズ>なのかと訊かれた場合、ぼくはこうこう答るようにしている。ディック・フランシスは生涯のチャンピオン・ジョッキーとして成功し、その後小説家という第二の人生でもまたチャンピオンになった人なんだよと。彼の小説はいつもどこかで競馬やそれを取り巻く世界に接触しており、彼の眼差しはいつも馬たちのところへ戻ってゆく。<競馬シリーズ>とは二つの人生で成功した男に捧げられた栄冠の称号みたいなものなのだ。ぼくはそう答える。

 <競馬シリーズ>という名が競馬に興味のない人からそっぽを向かれていることもぼくは知っている。作品は素晴らしいのに競馬には興味がない人の眼からこれらの名作がすり抜けてゆくのを見る。フランシスによって書かれてきたものは決して馬たちのことではないのに。言葉少なな男たちの名誉のことばかりが一貫して書かれてきたものだというのに。

探偵シッド・ハレー登場作



騎手キット・フィールディング二部作



他、長編小説



フェリックス・フランシス共著



短編集



ノンフィクション

最終更新:2015年04月29日 16:11