重賞



題名:重賞
原題:HIGH STAKES ,1975
作者:DICK FRANCIS
訳者:菊池光
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.4.30 初版 1991.9.30 10刷
価格:\520(本体\505)

 フランシスの作品って主人公の動きといい、事件への対策、姿勢といい、ほとんどパターン化しているんだけど、なぜこんなに何冊ものミステリー、冒険小説、コンゲームなどが書けるんだろう? ととても疑問だったけど、やはりその面白さは道具立てであったりするのだろうか? もちろん脇役の確かさもあると思う。重荷を背負った日常生活であったりすることもある。それは理解のない父であったり、不具の妻であったり、アル中の兄であったりもした。この本では、際立った道具は主人公の作る玩具である。

 玩具のアイデアで食べている主人公が、策略と暴虐に苦しめられ復讐に立ち上がるのだが、そのときの作戦が彼の作ったローラ玩具の動きになぞられるところは、なかなか巧いとしか言い様がないし、その向こうにまた計り知れない人間のランダムな動きがあることもフランシス作品ならではある。決して計算通りに動かないキャラクターたちを書く、という一点だけでも数いる日本作家は学んでおかねばならないと思う。そうそう作家の都合どおりに動く主人公ばかりで、いい作品ができるわけはないのである。

 フランシス作品ではそういう意味では人物たちが独り立ちしているように見える。もちろんそうではないのかもしれない。周到に用意されたキャラクター造形であるのかもしれない。しかし読者にそう見えるということは、小説として大切なのではないだろうか? 小説として生きているということではないだろうか? 読むたびに評価は高まる一方のフランシスなのであった。

(1992.11.22)
最終更新:2007年07月15日 22:54