暴走



題名:暴走
原題:SLAY RIDE ,1973
作者:DICK FRANCIS
訳者:菊池光
発行:ハヤカワ文庫HM 1978.10.31 初版 1991.5.31 8刷
価格:\520(本体\505)

 フランシスの競馬シリーズは10冊を越えた辺りから少し中弛み期に入るとかなんとか、 そんな片言の情報を聞いてしまっているせいか、近頃アクセルを踏み抜いていない感じだけど、 この作品は、なんと行けるではないの。 舞台が北海を渡った先のノルウェイにあるせいか、国境を渡っての冒険小説になっている。 かと言って国際的謀略や大スケールを求められても困っちゃうけれども (^^;)

 最初から妖しい妖しい相棒、 アルネ・クリスチャンセンが、まあ主人公を食ったような存在感でなんとも気がかり。 主人公はジョッキィ・クラブの調査員であり、 アルネをかつては教えた身である。要するにアルネは主人公デイヴィッド・クリーブランドの作った小さなランボーである。 このよう旧友かつ師弟関係軸に、サスペンスが展開する。

 物語の流れとしてはやや散漫な気がするけど、 それでもまあ、けっこう行ける話です。 ラストに近づくと、なんとなく「骨折」に話は近づいてゆく感じ。 フィヨルドを主体とした寒々とした風景が、ぼくは素敵な舞台に思えました。荒涼とした自然の横溢する背景って、実はぼくは好きなのだ。アメリカの脳天気な広大な砂漠より、 イギリス的立体風景の方が好きなのは、自分の中の日本人の風土病かもしれない。山ヤ的感性かもしれない。

 その立体風景こそが実は主人公でもある作品でありました。 久々に読むと、 いやあ、フランシスは本格的冒険小説の書き手だ、とつくづく思います。

(1992.09.24)
最終更新:2007年07月15日 22:48