血統



題名:血統
原題:BLOOD SPORT (1967)
著者:Dick Francis
訳者:菊池光
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.12.15 初版 1991.9.30 10刷
定価:\520(本体\505)

 えーと、前作『飛越』が航空小説だったので、あれは異色作だったのだろうと思いきや、これも異色作でびっくり。舞台がアメリカ、しかも東と西とを横断までしちゃう。主役は休暇中の英国諜報部員。しかしぼくはすぐに映画『リーサル・ウェポン』を思い出した。こいつも自殺願望の諜報部員なのだ。もしや『リーサル・ウェポン』はこの本からのパクリなのでは?

 でもメル・ギブスンと違って、本編の主役は格闘が苦手ってとこがフランシスらしい。拳銃ですべてを処理するタイプだそうだ。ジェイムス・ボンドなどは最初は非常に格闘シーンが凄かった(『ロシアより愛をこめて』参照のこと)のだが、最近の映画では華麗な道具や乗り物にお株を奪われている。で、一方この本の敵役は体格がっちりなものだから、主役は罠を張り巡らすシーンでもかなりビビっている。この辺が全然闘う主人公らしくないのだが、フランシス得意の痩せ我慢シーンは、本編相棒にも受け継がれていて、男同士の掛け合いがなかなかいい。

 敵はこれまでの作品に比すると、犯罪の仕掛けは大掛かりなるも、異常な性悪さが不足していて、その分大味、というかメリハリの少ない作品になっている気がする。でも、フランシスにも、こんなサービス精神があるんだな……なんと依頼人の警護にラドナー&ハレー社を使い「こういう仕事は一流の探偵社じゃなくてはだめだ」と言わせていたりする。御存知『大穴』のシッド・ハレーのやっている探偵社で、まだラドナーの名が冠されているから、『利腕』以前の会話の中でだけのゲスト登場といったところか。

 さて本書はやはり締め括りがいい。主役ジーン・ホーキンスの自殺願望がどこへゆくのか? 好漢ウォルトの果たす役割は? こうしたところで唸らせる、安上がりの解決を選ばないところがフランシスの魅力なのである。

(1992.04.23)