24時間




題名:24時間
原題:24 Hours (2000)
作者:Greg Iles
訳者:雨沢泰
発行:講談社文庫 2001.9.15 初版
価格:\1086



 グレッグ・アイルズというと大作しか書かない寡作の作家というイメージがあった。例えばトマス・ハリスみたいな。でもこれは上下巻に別れるほどの長さもないし、これまでの彼の作品の半分くらいのヴォリュームで、しかもわりとありきたりなサスペンス小説であるかのように紹介されている。これはグレッグ・アイルズという名の別の作家なのかもしれないとさえ思ってしまっていた。

 でもなぜ作品が短いのかは、読み出してすぐにわかった。これは誘拐を扱ったクライム・サスペンス。完全犯罪と言える誘拐を何度も反復している知能犯の犯人グループ。誤算だったのは誘拐された娘が24時間以内に投薬しないと命が危ない糖尿病患者であったこと。つまりデッドリミット型スリラーでもあるわけだ。

 グレッグ・アイルズの書く、たった一日の凝縮されたサスペンス。では彼はこれをどう書くのか。

 まず誘拐を成功に導く独自な犯人側のテクニック。誘拐する対象や期日が限られており、子どもは必ず返される。支払能力のある被害者家族に、誰も命を奪われずに済む、被害届なき誘拐。

 ところが今回に限っては被害者の特殊事情(つまり糖尿病に始まるもろもろの個性)により、犯人側への家族の抵抗の激しさがある。家族それぞれがそれぞれの流儀で犯人グループと対峙する構図の妙味がある。誘拐された娘と、彼女の監視役の間に流れるこの物語のコアとも言える空気が薫る。

 大鹿マロイを髣髴とさせる人物の人間味に加えられる悲劇。家族の絆。アイルズの作品の場合、アクションやスリルだけでは捉え切れないこのあたりの厚みがいつも潜んでいる。読後のぼくの中に燠火のように残してゆく何かがある。いつかしら知らず填められたことに気づいてしまう見事な罠。ストーリー・テリング、相変わらず健在。

(2001.11.11)