題名:螢
原題:FIREFLIES
作者:DAVID MORRELL
訳者:山本光伸
発行:早川書房 1992.2.29 初版
価格:1,600

 デヴィッド・マレルが癌で亡くした15歳の息子マシューに捧げる鎮魂歌(レクイエム)。「みんなぼくのことを忘れちゃう」というマシューの言葉から、作家である父が、作品という形で美しく凍りつかせた愛の結晶。帯ではラドラムとキングが賛辞を寄せている。そして子供の問題で心を通じ合わせるヴァクスとの手紙のやり取り。

 冒険小説で軽々しく扱っていた命の問題も、今後息子の影響なしには描いてゆくことができないであろうという全生活的なショック症状のさなかから、振り絞るように生まれた作品である。子を亡くした親の心から悲しみが去ることはない。時は決してこの問題を解決することがない。新しい一日一日を親は悲しむしかない。こうした容赦のない状況が、作品に込められている。

 形としては自伝的小説。幻想的な事実に幻想的な虚構を加えて昇華した本である。登場人物は当然実名で、プロローグとエピローグは主に創作の経緯が書き綴られている。どこが虚構でどこが事実であるかも詳細に説明されている。

 ぼくの親は子に先立たれた親であるから、そうした場合親の悲しみが決して消え失せもせず薄まりゆくこともしないことを知っている。死の順序が違うだけで世の中には不条理ということがあるのだと否応なく認識させられる。

 タイトルの『螢』はマシューがなくなった翌日、マレル自身が体験した不思議な体験に基づている。無数の螢だ。

 作品は、特に目新しい話ではないのだが、全体がハードな医療小説ともなっている。非情な闘病記であり、同時に美しい幻想小説でもある。マレル・ファン必読だと、ぼくは信じている。感情的にとても揺さぶられる本なので、人前で読まないほうがいいとも思う。ちなみにスティーヴン・キングは、この『螢』を、マレル生涯最高の作品と評している。

(1992.02.29)