邪悪の貌



題名:邪悪の貌 上下
原題:Show Of Evil (1995)
作者:William Diehl
訳者:広津倫子
発行:徳間文庫 1997.11.15 初版
価格:上\571 / 下\590

 前作が強烈なラストだっただけに、この本に関しては、その影響なしには何一つ語れない。とにかくこのシリーズは順番に読んで欲しい。この小説から味わった恐怖を考えるとミステリーというより、むしろホラー扱いした方がよかったか……と思いたくもなるくらいに、恐い、恐いストーリーなのである。

 前作と違って複数の事件に複数の人間がぶつかってゆくチーム小説になったような雰囲気があり、主人公ヴェイルの癖の強い反社会的な魅力は落ちてしまってはいるものの、代わりに活躍する脇の連中は、一人一人いいのである。前作の判事殿に比べてしまうと、本作のフラハティやセントクレアは少々地味ではあるけれど、十分に読者の記憶にとどまるような男たちである。やはりディールの人物造形術に衰えの感じられないところが、嬉しかったりする。

 一見無関係に思われる、遠く離れた場所での殺人に、ある時点で恐怖を感じ始めたいなら、まずは前作からきちんと読んでおくこと。作者は、作品を独立した形で十分楽しめるように、過去のシーンを頻繁に取り入れて、過去の登場人物たちのその後に関しても全くおろそかにしていないのだが、それにしてもこれは独立して読むような本ではないと思う。前作を深く引きずったプロットだからこそ、作者が反復を多用したのだと考えるほうが正解だろう。

 前作から十年という時間の経過も本書においては曲者だ。ヴェイルの音楽趣味は、70年代ものなので、ぼくはずいぶん自分のレコード棚との共通性を感じていたが、ともに年を取って、自分の中の直立なものを、自分の中でうまく飼い慣らることができるようになってきた。そんな年齢的な変化さえ微妙に感じられる。

 この作品のラストも強引であり、やはりディールしている。かなり強引なプロットなのが弱点といえば弱点だが、前作の真相をまだ引きずっているという段階で、次作への橋渡しの役割を果たした作品だとも思える。

 昨11月に出版されたばかりの完結編は、狂信者のテロリスト・グループとの対決なんだそうである。ようやくディールがディールに帰って行きそうな気配濃厚……ではないだろうか。

(1998.02.01)
最終更新:2007年07月15日 18:35