ぼくが愛したゴウスト




作者:打海文三
発行:中央公論新社 2005.4.25 初版
価格:\1,400

 打海文三は、主人公が子供であっても、容赦なく、非情に、過酷に彼を叩きのめす。完膚なきまで厳しく、彼を、彼の心を、鋭く打ち据える。そうした修羅の中に、いつも味方がいる。味方らしき人がいる。仲間がいる。切なく、暖かい、焦がれがあり、包み込んでくれる大きな存在が、どこかで彼を見守っている。

 読み始めて驚いたのは、作者らしからぬSFファンタジーかと見誤る。軽いイージーな読書をさっと終えてしまおうか、とため息をつく。作者への軽い失望、読者への裏切りとなるかもしれない。不安要素いっぱいのストーリー展開に、当惑する。

 しかし、打海文三の方向は、甘い方向に逸れてゆくことはついになかった。思いもかけぬ展開のなかで、不思議な作中人物たちとの、夢のような、幻覚のような、日々。救いのない、出口のない、閉ざされた世界での苦しみとうめきが、体感されるような、小説技法。

 起承転結の意味で言えば、最終的には破綻している物語なのかもしれない。でも、この物語に、主人公の想像したとおりの真実があるとするならば、本書はとても残酷でありながら、救いに満ちた物語であるかもしれない。

 人間の心とは何であるのか? 物質では証明されがたい抽象に、物語と言う形で光を当ててゆく試みを、作家たちは繰り返す。彼らに与えられた天賦の才によって。彼らの文体によって。本書は、あまりにもストレートに、心の不在、心の存在に焦点を当てた、愛と死のファンタジーである。
最終更新:2006年11月24日 01:09