フロスト日和




題名:フロスト日和
原題:A Touch Of Frost (1987)
作者:R. D. Wingfield
訳者:芹澤恵
発行:創元推理文庫 1997.10.17 初版
価格:\1,080



 文庫本とは思えぬような定価だが、ポケミス(特に愛読する87分署シリーズ)が1,000円の大台に載った時ほどの驚きは今さら、ない。まあそのくらい分厚い本。了見のよくない版元なら間違いなく何冊かに分冊するであろう質量のある本なので、フロストに関してはまあ高くは感じない。むしろもっと高くてももっと厚くてもこういう本なら、ぼくは敢えて笑って許してしまおうかとも思う。

 俗に言うモジュラー型小説、人気ドラマ「ER」のように、できごとの連続で埋められる濃密な時間を、フロストとウェブスターの問題刑事コンビが放浪する。デントンというイギリスの架空の街。どうやら87分署のアイソラみたいに、物騒で騒々しくって、人間臭さでいっぱいの街でもありそうだ。そう言えば87分署シリーズの『夜と昼』のような忙しさ、登場人物の多さでもあるようだ。まるで祭りのような、と言おうか、あるいは巨大で懲りに凝った仕掛け花火に点火したかのように物語は始まるのだ。

 普通の本ならそれなりに盛り上がったり中弛みがあったり、ある程度の多少の波はあるのだと思う。しかしこの本にそれがない。どこを切っても同じ緊張感、謎への興味、忙しい刑事たち……という、あたかも金太郎飴小説とでも呼びたくなるかのような弛みのないシナリオが、いやになるくらい続いてゆくのだ。

 もうそれだけでも見事という他ない。それでいて登場人物たちの造形もおろそかにしない。十指に余る事件を細かに描写しながら、きちんと設定されたキャラクター配置。こんな本のプロット、いったいどうやって作り上げたのだろう?

 ただとても悔しいのは、こんな面白本が、なぜ10年も経ってやっと翻訳されるのか? それにその後も続いているフロスト・シリーズの翻訳がいったいいつになったらなされるのであるか? 確かに10年前の本でありながら、古さを感じさせない。それは87分署と同じである。でもフロストというワーカホリックな刑事の、オフビートなこの魅力を知った読者にとって、前作からここまでの時間だって十分に待ち切れなかったのである。フロストはいったいどうなったのかと、まるでフロストの上司の警察署長の如く、苛立っていたのである。とにかくどんどん日本にこの面白さを輸入してください>版元様。

(1997.11.25)
最終更新:2007年07月15日 18:11