クリスマスのフロスト




題名:クリスマスのフロスト
原題:FROST AT CHRISTMAS (1984)
作者:R.D.WINGFIELD
訳者:芹澤恵
発行:創元推理文庫 1994.9.30 初版 1995.2.10 7版
価格:\850(本体\825)



 ひさびさに爆笑小説を読んでしまった。主人公の会話文だけで笑いを漏らしちゃうっていう作家だと、他にはロス・ローマスくらいしか思いつかない。ましてやイギリスの警察小説にそんなものが見つかるなんて、よもや思いもしなかった。

 そういう意味での強烈さを持っているけど、登場人物も事件のそれぞれもいたって平凡である。こちらが心配になるくらい普通の警察の普通の事件で、こういう主軸を黒い笑いと皮肉が回転させてゆく。いくつもの事件が起こっては終わってゆくモジュラー形式の4日間。

 それは新米刑事にとっては頭が痛くなるほど忙しい四日間だが、フロストにとってはなんてことのない平凡なワーカホリックの日常であるらしく、だからこそ彼の口から出る毒の数々が素晴らしかったりする。

 一冊をぼくの場合全部コンスタントに平均的に楽しく読むことができたのだけど、こういうのって珍しくないかな。平均的ということはそれなりにクライマックスの盛り上がりなども弱いということなんだけど、そういうクライマックス小説ではないのだな、これは。ましてや筋の通った大変すっきりしたミステリーというところからは、えらく離れたところに位置している作品でもある。

 この不思議な読書体験は、こんな感想文では絶対に伝えられません。ぜひ読んでご自分で体験してください。文春の1位、このミスの2位というのが適正な地位なのかどうかという問題に対しては、 ぼく個人としては少々懐疑的である。でもある意味でのインパクトというのを、しっかり持った本だと思いました。

(1995.02.25)
最終更新:2007年07月15日 18:09