悪党パーカー/エンジェル
題名:悪党パーカー/エンジェル
原題:Comeback (1997)
著者:リチャード・スターク Richard Stark
訳者:木村仁良
発行:ハヤカワ文庫HM 1999.4.30 初版
価格:\620
一作目の次にいきなり何十年もの時を超えて最新作にとりかかるというのはとても辛いけれど、とりあえず入手できていないものは仕方がないので、読んでしまったという作品。
『人狩り』から三十五年の歳月を経ての新作であるけれど、文体や構成そのものにはほとんど差を感じない。むしろプロットだけならこちらのほうが上を行っているように思う。読み出したらやめられない、パルプ風の手ごろな薄さで、ぺーパーバック本来の娯楽性を密度濃く詰めた一冊だと思う。
一時期クイネルの正体がウエストレイクだという説があったけれども、むべなるかなと思わせるのが、三人称複数での目まぐるしい視点変換、スピーディなリズム、読者を引きつける牽引力豊富な面白さ満載の質感である。確かにこういう作家が国際的なストーリーに走ればクイネル程度のスピード感溢れる面白さでを容易に書けそうな気がしてくる。
クイネルの正体についてはそうしたロマンはもはやなくなってしまったようだけれど、ウエストレイクが多くの別名儀を使用した作家であることもその噂に一役買った原因であったかもしれない。
巻末によると悪党パーカーのシリーズが中断していたのは、作家自身が書けなくなってしまったことだったようである。本作も永い間中断していたものを奥方の励ましで執筆再開、ようやく完成に至ったという裏話があるらしい。作家がもうスタークはいなくなってしまった……と嘆いたという話も劇的に過ぎる気がするけれど、それだけの産みの苦しみをまさに感じさせるのがこの作品である。
読むには手軽でスピーディで過激でいい小説だと思うのだけれど、書き手にとっては重い仕事なのだと思わせる。職人のように言われる作家であっても用意には本は書けない。そう聞くと、読者としては安心します。お手軽に本を書く作家がごちゃまんと存在する、文明の辺境みたいな国に暮らしているせいだとは思うけれども。
(1999.08.30)
最終更新:2007年07月15日 17:49