悪党パーカー/怒りの追跡



題名:悪党パーカー/怒りの追跡
原題:The Sour Lemion Score (1968)
作者:リチャード・スターク Richard Stark
訳者:池上冬樹
発行:ハヤカワ・ミステリ 1986.11.15 初刷
価格:\580

 エルモア・レナードの『ラム・パンチ』が作中の解説によると違法マネー搬送の行為の隠語であるように、本書の原題は、解説者でもあり本書の訳者でもある池上冬樹によれば「徒労に終わった苦々しい仕事(ヤマ)」の隠語であるらしい。この手のクライム・ノベルでは、仕事がまっとうに終わりスムースに運ぶことなんて、むしろゼロに等しいわけで、そうでなければ退屈きわまりない話が、空しく山となって積みあがるだけである。

 確かにドナルド・E・ペンドルトンのマック・ボラン・シリーズのように、すべてが順調に上手く行くスーパー戦士の戯画的な主人公もいてそれはそれなりにアメリカでは人気のある、いかにもヤンキー風ヒーロー像なのかもしれないが、それらは時の流れとともに風化され堆く堆積してゆく塵のようにやがては扱われるようになる。

 悪党パーカーという悪のヒーローに関しても戯画化されたようなある種の犯罪者の類型と言えるイメージはあるものの、彼の徹底振りは自身を語らないことで、より影の多いモノクロの印象を作り出している。説明も語りも最小限。語られることは具体的な行動に関してのみ。そうした具象の向こう側にパーカーはいつもひっそりと隠れているのだ。

 本書では、新手の仲間の裏切りに幕を開ける。それも堂々たる裏切りと、急速すぎるバイオレンス。手に汗握る開幕に始まり、逃げおおせたパーカーの追跡劇へと繋がってゆく。身元を知らない裏切り者を炙り出してゆく過程、追い詰める過程と、パーカーのアクションは必要最低限の行動描写でのみ語られてゆく。非常にスリムでタイトで歯切れのいいピッチだ。

 そのシンプルさにさらに新手の横槍を入れてくる悪玉の存在感も凄い。マット・ローゼンスタインとポール・ブロックのコンビは、実は最新作『電子の要塞』で再登場するようだ。そのために本書をぼくは手に取ったわけである。思わぬ傑作ぶりに唸ったが、パーカー・シリーズの中期代表作というスタンスにあるらしい。道理!

(2005.02.27)