悪党パーカー/弔いの像



題名:悪党パーカー/弔いの像
原題:The Mourner (1963)
作者:リチャード・スターク Richard Stark
訳者:片岡義男
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.9.30 初刷
価格:\270

 ふと気づいてみるとハヤカワ版に関しては全部手元に揃っている。角川版は本当に出回っていないので再版を待つ意外に手に入れようがないのだけれど。最近別名義の方では毎年ベスト10入りしているのでそちらに期待、という手もあるのだけれど、なにぶん別名義なので括弧付きでウェストレイクとでも入れられてしまうかもしれない。それでもいい、ともかくこの人の古い作品は、不遇をかこち過ぎている。

 そうした気持ちが激しく沸き起こるのは、このシリーズもまた、どの作品を呼んでも手抜きが見られないばかりか、すべからく面白いからだ。どうでもいいような作品がいつまでも市場に出回っている一方で傑作揃いのこうしたシリーズが今、読もうとしても読めないというのは何ともたまらない。

 愚痴から入ってしまったけれど、それも久しぶりに手にとったシリーズの一冊が、やっぱり期待にたがわず素晴らしかったからだ。

 本書では、前作『犯罪組織』からパーカーが引きずっている情婦エリザベス・ハーロウとの関係が仇になる。前作で大活躍してくれたパーカーの仕事仲間たち(組織に属さない単独のプロフェッショナル・アウトロウたちばかり)のうち、ハンディ・マッケイが本作でも活躍する。

 そうした旧キャラに加えて、本作では謎の人物、でぶのオーガスト・メンロという男の存在感が素晴らしい。クラストラヴァという旧ソビエト圏(何しろ本書は冷戦時代の作品だ)にある東欧の小国で国家警察警視を務めていたといういわくありげな人物なのだが、正体が掴みにくく、パーカーのリズムを壊してゆく気配がよく伝わる。

 東欧の階級社会とアメリカという自由の国家との狭間で揺れ動いてゆくメンロの目論見こそが本書のメイン・ストーリーであり、パーカーはいつもの流儀をそのストーリーの中で貫く、あくまで主人公でありながら、どうにも脇役のような、収まりのつかなさを感じさせる。最後にはこの本はパーカーのための、パーカーだけが切り抜ける物語なのだけれど、こうした世界観の違う人物を立てたストーリーは、それなりにギャングや裏切り者との争いとは目先の変わった魅力に溢れていたりするのであった。

 新作『悪党パーカー/電子の要塞』が出版される頃合、またしばらくパーカー・シリーズを読み漁ろうかと密かにぼくは企んでいる。もちろん、わくわくしながら。

(2005.02.13)
最終更新:2007年07月15日 17:43