悪党パーカー/犯罪組織


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題名:悪党パーカー/犯罪組織
原題:The Outfit (1963)
著者:リチャード・スターク Richard Stark
訳者:片岡義男
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.7.31 初刷
価格:\280

 現在入手するのがかなり困難と言えるこのシリーズを、いろいろな方策を講じて一冊でも多く手に入れようと日頃から努めている。たまにいい当たりがあっても、問い合わせた途端に売り切れてしまうということが多い。その中でもポケミス版よりは、ミステリ文庫に収録されたものについては版数が出まわっているらしく、ネット古書店などでもけっこう手に入れやすい状況になっている。この『犯罪組織』『弔いの像』『襲撃』はそうした意味で、まだしも近い位置にある作品なのだと言える。ちなみにこの辺りの本でも、古書店相場は4桁になるので、多少の出費は覚悟!

 しかし問題なのはこの三作品がシリーズでは第三~第五作目に当たるということ。第一作の『人狩り』はメル・ギブスンのおかげで再版され、まともに流通しているので第二作『逃亡の顔』が嫌らしいことに欠損しているわけだ。どうにか読もうたって、簡単に読める代物ではない。実はこれがけっこう問題になっていたりする。

 本書『犯罪組織』を読むとすぐにわかることだが、主役であるパーカーの顔は整形手術を完了しているらしく『人狩り』のときとは別のものになっている。第二作でけっこう面倒なことが起こったらしくて、第三作では昔の知り合いに上手く説明しないと自分がパーカーであることがわかってもらえないという、ややこしいシチュエイションになっているわけである。こんなところからいきなり読まされるというのも、けっこう情けないものだ。早川書房が読者のことなんて何一つ考えてくれていないんだってことがよくわかるいい例だと思う。なんだっていつも順番を違えて文庫化しやがるんだろう、まったく……! 

 さて、パーカーは顔は変わっても性格は変わらない。ぼくはスターク=ウェストレイクの作品をそんなには読んでいないので、模範的な読者ではないのだけれど、彼の作風は、個性のある主役を持ち出すというよりは、何か類型的な人物を作り出してゆくことで世の中の仕組みみたいなものを読者に語り、その中だからこそ、このように考え、動くしか彼には生き残る道はないのだよと言っているような気がする。

 だからパーカーというのは、ある孤高の犯罪者の類型的な存在であって、このシリーズもだからこそ、さほどに個人的な部分に踏み込んだものではないものに仕上がっているのだ。要するに面倒なことは言わない。犯罪者の毎度毎度のサバイバルゲームを、そのやり口を、その決め事を、じっくりと楽しんでくれ、と言わんばかりの語り口なのだ。ある種87分署シリーズにも似た、主役たちとの適度な距離感が、この時代のパルプには似つかわしかったのだと思う。

 さて本作だが、こともあろうに巨大な犯罪組織を、一匹狼の犯罪者であるパーカーが積極的に相手取ってゆく話である。約束が違う、裏切れば力で捩じ伏せてやる! と独りの男が組織に食ってかかる話なのである。スタークの腕の確かなところは、そういう彼をバックアップする力の存在を明確にしているところだ。犯罪組織と違って、一匹狼は通常群れていないが、互いの間に規律を持っており、必要なときは姿を現して力を貸してくれる互助組織みたいなものというのだ。その一匹狼の数や歴史や実力は、即興の犯罪組織では侮れないというバックボーン。

 もちろん犯罪組織はそんなことには屈さずパーカーをいつもの伝でやり込めようとするのだが、パーカーはそこで目に物を見せてやるわけだ。ピンチを乗り越え、スリリングな綱渡りをやらかし、痛快この上ない毎度のパーカーならではの闘いをぼくらは容易に味わうことができるのだ。

 当時のこのシリーズは片岡義男が翻訳に当たっている。ときには小鷹信光が、やがては木村二郎が。

 こういうアメリカン・ミステリの教科書みたいなオーソドックスなシリーズが、いま日本では完全に古書界の闇に埋もれている。このような文化の荒廃についてぼくらはただひたすら嘆くしかない。本当に芸のない話である。

(2003.03.04)
最終更新:2007年07月15日 17:42