殺しのVTR


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題名:殺しのVTR
原題:HEAT FROM ANOTHER SUN
作者:DAVID L.LINDSEY
訳者:入江良平
発行:扶桑社ミステリー 1991年4月25日 第一刷
価格:\700(本体\680)

 『噛みついた女』(COLD MIND)に続くヒューストン警察スチュアート・ヘイドン刑事シリーズの第2作。内容が非常にこってりとして食べごたえがあり、警察小説でありながら、どこか私立探偵に近い動きを見せるヘイドン刑事と、背景になるエル・サルバドルへのCIAの敷設した潜入ルートや銃撃のクライマックスは国際謀略小説のスケールに迫っている。ただの警察小説ではない。高品質なヘビードリンクを飲んだ後の眩暈すら覚えるほどの、これは優れ本である。

 『悪魔が目をとじるまで』『噛みついた女』と異常者の連続殺人を追ってきたぼくの眼にはこの本はけっこう新鮮に移る。何よりもパターンが違う。まずはこの本での連続殺人は殺される理由のありそうな被害者であるということ。背後に何等かの隠蔽工作があるらしいこと。その鍵を握るのが、何かのヴィデオ・フィルムであるらしいこと。事件の影に暗躍する東洋人の戦争カメラマンがすべてを握っているらしいこと。また一方巨大産業を牛耳る孤独な異常者の存在。またこれに繋がるCIAのダミー会社。事件は非常なサスペンスのさ中に、異様な陰謀の匂いを孕んで疾走してゆく。

 ヘイドンは前作の事件で半年間の長期休暇中であったが、デイスタル警部補の嘆願で捜査に加わってゆく。休暇中であるので警察署には全く立ち寄らない。同僚の刑事たちと会うのも、レストランやコーヒーショップと凄い機動性を発揮して動き回るのである。しかも彼は例の異常な一面を相変わらず抱えたままだ。頻発する血と暴力のイメージが彼を苦しめ、妻のニーナがそれを包容する。これはヘイドンの内面の克服ドラマをも含んだ小説であり、最後には異常な発作の原因を夜の墓場で妻に語る。忘れられない名シーンになっている。

 通常の二人コンビと違って、かなり独自な動きを見せるヘイドンの捜査活動は、ハードボイルド小説に近い。また彼の真向こうにいる戦争カメラマンが素晴らしいキャラクターである。命を投げ出すかのようにして戦場を駆け回り、殺戮を撮りつづけるプロフェッショナルのカメラマンは、最悪の状況の中で実に冷静に動きまわり、謀略者たちを手玉に取る。女たちにやさしく、プロにはプロとして立ち向かえる彼の存在が、このドラマ全体の緊迫した状況を煽りに煽っている。

 描写が細かく積み重ねられているせいで、若干重すぎて読みにくいという方もあるかもしれない。ただその文体は翻訳者を変えても、高度なレトリックを駆使した流麗なもので、ぼくはとても好きである。原題を見てもらえればわかるように、大変なイメージ力を持った作家だと思う。ヒューストン市の描写一つ一つが実に味わい深く、翻訳でありながら文章自体を深く味わうことができる。現在ヘイドン・シリーズの三作目"SPIRAL"翻訳、出版準備中との噂。うーむ、楽しみなのである。

(1991.06.30)