男殺しのロニー




題名:男殺しのロニー
原題:Man Eater (2003)
作者:レイ・シャノン Ray Shannon
訳者:鈴木 恵
発行:ヴィレッジブックス 2005.9.20 初版
価格:\850




 LAを舞台に、わけありの男や女が複雑に絡み合い、サバイバルを繰り広げる展開は、まさにエルモア・レナードを髣髴とさせる作品である。レナードに少し湿り気を与えて、よりバイオレンスを強調した世界と言ってもいいかもしれない。

 女性映画プロデューサーのロニーは、とあるバーで、凶暴な殺し屋ニオン叩きのめしてしまった。一方で、仮釈放中のエリスは、メキシコ人ギャングのアヤラ兄弟に立ち向かい、二人を病院送りにしてしまう。復讐と殺意に燃える二組の悪漢と、わけありの過去を持て余す女と男。

 さらに多くの人間たちを巻き込んで、LAに血の嵐が吹き荒れる。ぴんと張り詰めた状況を、生活感たっぷりに描いて、地に足の着いたシナリオである。身を隠しながらも反撃を狙う、彼らの手には、エリスの書いた有望な映画シナリオ。まるでチリ・パーマーの生きる(E・レナード『ゲット・ショーティ』『ビー・クール』)映画業界に、別の作家の手になる別の野獣たちが今度は違った形で蠢いているような空気なのである。

 本書はチリ・パーマーシリーズほどに底抜けの明るさを持ってはいない。ギャング出身で暴力のプロでもあるチリと違って、ヒロインもヒーローも過去の罪と自責を引きずってはいるものの、これからの平和な生活を再建させるべく、重たい枷を引きずったあくまでリアル生活者なのである。もちろんそんな重たい過去の事情などほとんど口にしないところが、ロニーというヒロインのタフでハードボイルドなところなのだが。

 女性というのは、いくら強く鍛えていても、一対一の対決では男には所詮敵わない……とは、実際に体を鍛えている女性から現実世界で耳にしたことのあるセリフである。ロニーにもその自覚は十分にあり、だからこそエリスの支援を求める。しかしニオンを許さず、とことん反撃してやるという闘志だけは、絶対的にストレートでシンプルでとても共鳴しやすく、頼もしい。こればかりは、緊迫のラストシーンに至るまで譲ることがない。

 レナードのシリーズ同様に、彼女と彼の道行きは、そのまま新作映画のシナリオになってしまいそうなほどに、過激でスリリングな展開を通過してゆく。

 それに暴力そのものよりも、登場人物全員を追い詰めてゆく状況作りが素晴らしい。込み入ったプロットをしっかり絡み合わせて、ひとつの拳のように固めてゆく手腕は、さすが、実績のある覆面作家のものなのだと思う。

 ちなみに過去の作品とはまるで別のスタイルで勝負をかけたいという意図の下の覆面であり、別名義であったそうだ。作者の気概が、確かにびんびんと伝わってくる一冊だと思う。

(2005.10.10)
最終更新:2007年07月15日 16:11