カリフォルニアの炎




題名:カリフォルニアの炎
原題:Carifornia Fire And Life (1999)
作者:Don Winslow
訳者:東江一紀
発行:角川文庫 2001.9.25 初版
価格:\952



 何となく弱々しいくせに、肝心のところだけは頑固。失敗も多いのに、徹底的に闘う姿勢だけが取り柄の主人公というのは、ドン・ウィンズロウの最早キャッチフレーズと言っていいかもしれない。

 新しい主人公は火災査定人。まるで『ストリートキッズ』で探偵術を一から教わったときみたいに、本書では火災について消防学校で覚えてゆく。炎の科学、燃焼に関する物理、気体、素材の科学。保険と裁判に関する法律学。また大工の父親から幼時より学んでいた建築の心得。それらを火災査定の術として叩き込まれてゆく過程すらが面白い。

 作者はどこでこれらのことを調べたのだろうと思われるほど多才博識な小説でありながら、テンポの良い悪党たちの動き。時間が限られ、我らがヒーロー、ジャック・ウェイドは火災の裏を暴き出す。そして罠、罠、罠。幾重もの多重構造の裏切りの層がジャックを取り巻き、追い詰める。

 それでもジャックはへこたれない。火災で焼かれた被害者の夫人とその幼き子どもたちの顔。真実が見えていて証拠もあるのに、それを阻む組織立った分厚い壁。正義正義正義と唱えるかのような頑固者の主人公。うーん、これがウインズロウの魅力なのだ。

 絶対に譲歩しない主人公。これ以上ないほどに悪辣な罠。そして火で始まり火で閉じてゆく大団円への加速度と国際的スケール。カリフォルニアの豊かな自然を背景に、プロフェッショナルな人間たちの、瀬戸際の闘いを、小気味良いテンポで叩きつける作者会心の傑作小説が本書なのである。

(2001.10.08)
最終更新:2007年07月15日 16:02