砂漠で溺れるわけにはいかない




題名:砂漠で溺れるわけにはいかない
原題:While Drowning in the Desert (1996)
作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 2006.08.11 初版
価格:\720




 このシリーズは感覚的には長かったような気がするけれど、実際にはたったの5作しかなかった。これはその完結篇に当たる最終作品。5作にしては名残惜しい気がするのは、作品と作品の間が長く空いたためだろう。本書巻末で訳者も書いているのだけれど、5作を完訳するのに何と13年もかかったそうである。本書だって、10年前の作品の言わば忘れた頃の邦訳だ。

 さて昨年に続き立て続けに翻訳された最新二作はどちらも小編である。どちらかと言えばユーモア・ミステリーに分類されるだろう。東直己のすすきの探偵シリーズに冠される「軽ハードボイルド」という言い方でもよいのかもしれない。

 いずれにせよ最初の三作ほど、ページ数も内容もぎっしり厚みのあるものではないから、ここに来て途中からこのシリーズを読んだ人は、ニール・ケアリーの物語ってヤング・アダルト向けか、ジュブナイルか、と思ってしまうかもしれない。

 本書も最終作の重みというのはさほどない。『カリフォルニアの炎』で使われた砂漠を想起させる舞台装置と、何よりもページごとに笑い乃至は微笑・苦笑に至るさまざまなユーモアを味わえるところが何と言っても本書の良さであり、ウィンズロウの味である。

 長く熱い最終章をお望みの方には少々不足感のある呆気ない幕引きかもしれないが、思えばニールは未熟探偵のシリーズだったのだ。それがいつの間にかオヤジさんであるジョー・グレアムから独り立ちし、カレン・ホーリーと新婚の日を迎えようとしているのだ。ところがすんなりそう簡単にいかないデコボコの結婚前夜。

 ふとした頃からある爺さんのお守りをすることになったニールは、砂漠でとんでもない事件に巻き込まれることになり、カレントの仲も危うく。爺さんとの世代間闘争みたいな楽しいやりとりが実に楽しい。デイヴィッド・リンチ監督の『ストレイト・ストーリー』みたいに、年寄りと若者は会話をすべきなのだ。

 明るく、ハートウォーミングで、それでいて活劇もたっぷりの娯楽シリーズ、本シリーズで実に飄然と呆気なく巻を閉じてしまった。でもウィンズロウ作品は是非どんどん(洒落じゃないです)続けて欲しい。

(2006.10.29)