ウォータースライドをのぼれ


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題名:ウォーター・スライドをのぼれ
原題:A Long Walk Up The Water Slide (1994)
作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 2005.7.29 初版
価格:\980




 久々のウィンズロウ節。あまりにも時間が空いてしまったために、いろいろなことを忘れている。ニール・ケアリーの所属する朋友会という名前だって忘れていたし、カレンと一緒に暮らしているいきさつだって忘れていた。でも、そういうものはまあいい。確かにシリーズモノではあるけれど、一作ごとに、独立した大スケールの物語で、起承転結がはっきりした作品であることには間違いないだろうから。

 そんな気軽な気分で読み出したものの、東江訳による文章の面白さは、やはり読み流すには、あまりにも惜し過ぎる。かくして、ぼくは一行一行を、喘ぐのではなく深呼吸するようにじっくりと読み進めた。特に味わい深い文芸作品でもないし、ハードボイルドの大人の味わいというのでもないのだが、なぜかこの作家の文章は、個性的で味わい深いんだ。

 多くの登場人物が皆、ニール・ケアリーを目指して集まってゆく経緯は、あのドタバタ・インブロビゼイション小説『ボビーZの気怠く優雅な人生』に近い味わいがある。その上、活劇に継ぐ活劇、ピンチに継ぐピンチは、どこまでもスリリングなのに、とても喜劇的で、ドサクサ紛れにピーター・セラーズあたりを登場させたくなるくらいだ。

 プレイオフという変わった異名を取る殺し屋の存在が、とても不気味で残忍な気がするのだが、彼もどうやらこの本全体の活劇に一層の彩りを与えてくれていて、表題に繋がるラストのクライマックスは、彼の才能無くしてはあり得ない。それに比べて、ニール・ケアリーの涙ぐましきシンプルな戦いぶりは、どうだろう。

 すっかり大人になって一人の女性のハートを射止めながら、次々と追加される女性パワーに圧倒され、縮こまって見えたニールの活躍の場は、最後のそのシーンくらいしかなかったような気がするけれど。

 理屈抜きで、ウィンズロウ・ワールドに入ることのできる作品。この中に登場する冴えない探偵、ウォルター・ウィザースはちなみに『歓喜の島』の主人公だそうな。あまりに遅れた翻訳なので『歓喜の島』の内容のほとんどを忘れてしまったところがとても残念だ。もっとリアルタイムに読みたい、ウィンズロウなのである。

(2005.08.14)