高く孤独な道を行け




題名:高く孤独な道を行け
原題:Way Down On The High Lonely (1993)
作者:Don Winlow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 1999.6.25 初版 1999.7.16 2刷
価格:\740



 恥ずかしながらこの作家のこのシリーズを、ぼくは1999年の夏まで知らなかった。畳みかけるようなペースで1999年という年をこの作家が邦訳されることがなかったら、ぼくもこの作家の本を手に取っていたかどうか怪しいところである。ちなみにぼくは『ボビーZの気怠く優雅な人生』を人に勧められて読んでカルチャー・ショックを受け、続いてとにかく立て続けになっていたこの本も読んでしまった。シリーズであることを無視して。

 シリーズである作品を最初から読まずに、いきなり途中から読むということに関してはぼくは比較的批判的であり、うるさい方である。なのによんどころのない事情があって新作を先に手にして読んでしまったのが、このシリーズとぼくとの出会いにおける最大の悲劇。

 『ボビーZ……』のスラップスティックなスタイルとは大きく違ったスタイルで一方のこのシリーズが書かれていることにはすぐに気づいたが、こちらはこちらでじっくり若き主人公ニール・ケアリーの人生を描こうというものなのだな、と新たな文体、新たなリズム感にそれなりに感銘した。ストーリー・テリングの巧さというか、人を食った展開。

 根底にあるのは作家のサービス精神なのだろうけれど、それ以上に小説を作ることを作家自身が楽しむ遊び心のようなものが見え隠れしている。だからドン・ウィンズロウという作家の本は非常に凝っており、非常に型破りなのだろう。

 ぼくはこのようにアウトドア的世界、時代に取り残されたようなノスタルジックな気配、異国感と言ったもののすべてをこの作品のオリジナリティとして強烈に受け止めざるを得なかった。そして「活劇」というシンプルな形容ですべてを語り尽くしたい、エンターテインメントのある種古典的なジャンルとの再開がここにあった。

 西部劇の持っていたあの土臭いロマンの空気がどこにも感じられなくなってきたバーチャルな世界の中で、なんだかとても人間臭くって、ファンタスティックな物語であること、そのことだけでぼくの心の忘れていた部分を大変強く刺激されてしまった。ぼくのこの作品に対する評価はそこに尽きてしまう。だからある意味でぼくにとっての「完璧な娯楽小説」!

(2000.01.16)