仏陀の鏡への道




題名:仏陀の鏡への道
原題:The Trail To Buddba's Mirror (1992)
作者:Don Winlow
訳者:東江一紀
発行:創元推理文庫 1997.3.14 初版 1999.6.18 8刷
価格:\880



 当然ながらこれを読んで初めて『高く孤独な道を行け』における中国でのプロローグの意味がわかった。やはりシリーズ物は順番どおりに。

 ニール・ケアリー・シリーズの二作目は重厚感。何が重厚といって中国現代史の重厚が凄い。アメリカ人の作家でここまで中国の歴史に凝った人というのはあまりいないのではないだろうか。地理的説明も歴史的背景も独特のブラックな語り口で切り裁いてみせるが、ある意味でニールのこの種の彷徨の過程をディテールから描写してゆく作法は、このシリーズに共通したものかもしれない。

 一作目がロンドン、本作が中国、三作目が北米中西部と、活劇の舞台の激変ぶりにも驚愕させられるのだが、こうした距離感のある設定こそがニールの辿る一筋縄では行かない裏街道人生の魂の遍歴のために用意された旅程表であるのかもしれない。本作での"Trail"、次作での "Way" という原題もむべなるかな。

 主人公の擬似父子という設定にしても、通常の家庭を持たない、ストリートから生まれ育ったニールの旅にとっては必然性の強いものと感じる。読み応えのある世界であり、あくまで徹底したその独自ぶりこそが、この作家の究極の武器である。

(2000.01.16)
最終更新:2007年07月15日 15:52