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裸者と裸者 上 孤児部隊の世界永久戦争




作者:打海文三
発行:角川書店 2004.09.30 初版
価格:\1,500

 昨年末に作者が言っている。『裸者と裸者』という全十巻くらいの大作を書いてゆくつもりだということ。第一作は「無学で粗野な孤児兵の視点で北関東の戦場を」と。

 しかし予想と違ってこの『裸者と裸者』は上下巻という二作だけで上梓された。しかしながら、二作は時間軸と地平は同一線上のものであって、登場人物らもかぶるものでありながら、実は別の主人公による別々の独立した物語である点、最初の構想と同じものである。

 作者がインスピレーションを受けたのはニューヨーク9・11の同時多発テロであると言う。日本が内戦と暴力の国家になったことを仮定して書かれたこの近未来の物語は、俗に言う戦争シミュレーションというものとは一歩かけ離れたところにある。残酷な世界背景の中で描かれるのは、この作家の場合いつも戦いをやめないプロフェッショナルたちの物語であるということ。孤独でたくましく、そして悲しみを背負い込んで銃を取る者たちの物語であること。

 それがスパイ小説であれ、戦争小説であれ、書かれてゆこうという部分には同じ匂いがしてゆく。こうした近未来小説の場合、架空の設定の説明部分だけでも十分に鬱陶しいものがあるものだが、その設定そのものを楽しむのが架空戦記であり、戦争シミュレーションであると思う。その設定を背景に自由度を高めた形で、人間の極限状況を描こうという試みこそが、打海文三にとってはこの『裸者と裸者』シリーズであり『ハルビン・カフェ』であったのだと思う。

 北関東の茨城県を戦場に書かれた孤児の妹弟たちへのまなざしはまるで『火垂るの墓』のように切なく無力なものだが、そうしたシチュエイションは、ほんの発端に過ぎない。本書は、孤児としてのし上がってゆくある種の奇跡を描いて、世界を変えようという祈りや共感に通じてゆく。

 利益とモラルをともにする協力者たちが、世界の軸から少し外れた者というところで共通してゆくあたりは、まるでハードボイルド小説の卑しき街の仲間たちのようでもあるが、魂のところで繋がってゆく彼らの必死はさらに連帯感を呼び、少年に奇跡を、力を、富をを与えてゆく。

 いささかご都合主義のようにも見えるストーリーを力技で迫真に変える筆裁きも見事ならば、これだけの重厚な世界設定をスピード感溢れるいつものテンポで読ませてしまう語り口も一流である。これまでと違った切り口を存分に見せてくれる打海世界。今後の展開など一寸先すら読めそうにない。