無頼の掟




題名:無頼の掟
原題:A World Of Thieves (2002)
作者:ジェイムズ・カルロス・ブレイク James Carlos Blake
訳者:加賀山卓朗
発行:文春文庫 2005.1.10 初版
価格:\771




 微熱のように残る作品である。多かれ少なかれ、現代という都市性に委ねられた我々の日常生活から、いかに遠い隔たった場所へ連れて行ってくれるかというあたりは、小説というスタイルの醍醐味であるが、それこそこの物語は1920年代、禁酒法時代のテキサス。ジャズの街、ニューオーリンズから、荒くれた無法地帯である西部油田地帯へ、ロード・ノヴェルと、過去へのフェイド・バックを交えながら、丹念な歴史絵のタペストリーの如く紡ぎ出されてゆく。

 『ワイルド・バンチ』を意識させるような、冒頭の銀行強盗シーンに始まる衝撃のストーリーは、過去に旅し、主人公の中に夢と冒険と無法とをいっしょくたにさせたような、荒くれた気分が誕生してゆくプロセスを念入りに、探る。これが、思えばラスト・シーンへの助走であったことを悟らされるのに、まるまる一冊の物語と、登場人物たちの山のような死体が必要となる。

 すぐそこに死が潜んでいるビジネス。それが犯罪である。犯罪稼業には、濡れ手に粟といった愉快さに、非業な死や肉体的損壊といったリスクが共存する。そうした中にいないと燃えることのできない男たちと、奴らを中心に回ってゆく擬似家族たちの運命共同体が、内部の葛藤を繰り返しながら、性と暴力にダンスしてゆく姿は、やはりピカレスク・ノワールの、とてもオーソドックスで正攻法な切り口であるように思える。

 未だ書かれていなかったことが腑に落ちないくらいに、正攻法な小説である。けれんみのないストレートな一人称話法に、接近する大低気圧みたいな冷血の復讐鬼。アナログでとても人間味のある悪党たちと、非常に機械的に処理し、自らの復讐劇をプログラミングしてゆく無表情な復讐者は、あたかも自然の摂理に基づいて動く森の中の原始的な生態風景のようでもある。

 そのくらいに都市文明がものを言わなかった、人間たちが丸はだかであった時代と場所。美しい陽光が空気を斜めに断ち切り、真っ赤な溶鉱炉に変えるような神がかり的に美しい世界。性も暴力も、まるで陽が昇り、そして沈んでゆくだけのことのように、流砂の物語として、こぼれてゆく。ただただ熱い血のうめきだけを、生存者の体内に残して。

 タフで、熱気溢れる男たちと、関わりあう女たちの世界。プリミティブなアメリカの光景を満載した、硝煙香る死のプロットである。

(2005.05.23)
最終更新:2007年07月15日 15:25