もっとも危険なゲーム



題名:もっとも危険なゲーム
原題:THE MOST DANGEROUS GAME (1963)
作者:GAVIN LYALL
訳者:菊池光
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.6.30 初版 1989.3.31 10刷
価格:本体\460

 ライアルは冒険小説の古典みたいなものだから、一時期全作品をそろえようと躍起になったんだけど、読書のベテランの声では「ライアルは初期四作品だけ」との専らの評価。ぼくは『深夜プラス・ワン』『ちがった空』の二作でライアル初期作品を非常に信頼してしまったし、二作の印象は時を経てもかなり根強く残っていた。だからこの後『もっとも危険なゲーム』『本番台本』の保証付きの二冊を読んでいないのは、本当に偶然というしかないのである。

 さてところで、このライアルの代表作の一つである本書をなぜ手に取ったのかと言うと、実はきっかけは稲見一良。彼の著書『ソー・ザップ』のあとがきで稲見氏は、実は『ソー・ザップ』のタイトルを『もっとも危険なゲーム』としたかったと書いているのだ。このゲームは「銃による対決」「マンハント」のような意味合いがあるのだが、 そもそも 1924 年リチャード・コネルが最初に "The MostDangerous Game"(1924) を書いたものをベースとしてライアルが同名の作品を書いた。

 できたらコネルのものから手に取り、三作を順に読みたかったというぼくの目論見であったわけだ。読書の楽しみとか方法とかは人によっていろいろだが、本作のようにベースになる小説があるなら、作者の思い入れをもできるだけ読み取りたいというのは、読者として当然の希求である。ぼくは入手できないコネルの作品を泣く泣く捨て置いて、とにかく信頼性はしっかりと保証されているライアル作品を手に取ったのだった。

 ライアルは元パイロットということで航空冒険小説を書かせてはなかなか知られた作家であり、それが初期作品にはかなりいい意味で生かされていると言われているのだが、本作もその例外ではなく飛行機そのものの魅力が、飛行機自体になんら興味を持たないぼくのような読者にまで伝わってくる。

 本書を読んで実に感じたのが非情さ、不条理さ。問題のマンハント・シーンが、非常に衝撃的であり、なぜか映画『ディア・ハンター』の狂気を思い起こさせられてしまった。ライアルの作品がなぜずっと記憶に鮮明に残るのかいぶかしまれるのだが、これを見ると、やはり並みでない人間の並みでないシーンが深く心に何かを刻みつけるからなのだと思われる。

 文体はフィリップ・マーロウを思わせる洒脱なハードボイルドでありながら、プロットの方は英国本格冒険小説という、一冊で二つの世界を楽しめる極めて希有な作家ではないだろうか。

(1994.07.15)