地獄じゃどいつもタバコを喫う




題名:地獄じゃどいつもタバコを喫う
原題:Everybody Smokes In Hell (1999)
作者:ジョン・リドリー John Ridley
訳者:山田 蘭
発行:角川文庫 2003.05.25 初版
価格:\819



 読み出した途端に、この作品が描く地獄から本当に抜け出せなくなった。何だか、どこかで見たような地獄だった。巻末の解説を先に読んでしまうことにした。結末についてまではまさか書いてあるまい。なるほど。得心した。この作家はあの『Uターン』のシナリオ・ライターだったのだ。オリバー・ストーンの唯一の怪作。何度もこいつのDVDを買おうかどうか迷っているが、一向に安くならず(はっきり言って高い!)、人気商品でもないので、仕方なくビデオで再生するしかない作品だ。もちろん主演は地獄にお似合いの男、ショーン・ペン。あの映画自体が地獄であった。この作品で抜けられなくなってしまった地獄への馴染み感は、そんなところに繋がっていたというわけだ。どっちの作品を見てもOK。どっちにしたって地獄だから。

 ノワール、イコール暗いだけでつまらないと思いこんでいる石壁のような人にこういう作品を読ませてあげたいと思う。独特の疾走感、独特のエネルギー、その屈折こそが、フリークこそが、バイオレンスと愛憎劇を作り出してゆく。非力で空しく泳ぎ回る人間たちを俯瞰するようにすべてを知らされるのは読者のみ。独自な作者の語り口で、登場人物たちは限定された地獄の地平へと一直線へ駆け抜ける。弾丸のように。落日を受けたグレムリン。

 スタンダップ・コメディアン。それがこの作者のスタート地点だったのだそうだ。スタンダップ・コメディアンと言えば、あの狂乱のレニー・ブルース。ダスティン・ホフマンが演じた鬼気迫るブルース。その後ニューヨークからロスへ渡ったジョン・リドリーはレニー・ブルースのように名を成すことはなく、脚本家へ。そしていま、この地点、小説家という場所に辿り着き、現状、脚本家との二足の草鞋で容赦のないハリウッド沙漠を彷徨っているところだそうだ。

 スタンダップ・コメディアンの持つ独特の語り口。アドリブ力。引き、受け、そして攻めに転じる、リズム、テンポ。何よりも全体の流れるような音楽性。ロジックではなくウェイヴ。そうした響きがこの小説全体の基調を作る。乾いた乾いた西海岸。暗く血に飢えた欲望のクロスファイア。久々にノワールの血しぶきを浴びた思いのどきどきするような一冊であった。

(2003.11.11)