チェシャ・ムーン




題名:チェシャ・ムーン
原題:Cheshire Moon (1993)
作者:Robert Ferrigno
訳者:深井裕美子
発行:講談社文庫 1995.7.15 初版
価格:\820



 『ハートブレイカー』のイメージとはちと違う。何が違うと言って、あそこまで暴力が弾けていない。ヒーローもおとなしめの記者という役割。でもこの人の作品はやはり凄い!

 キャラクターが魅力的で人間描写をおろそかにしなければ、こんなにシンプルな展開のストーリーであっても、迫力、魅力、印象の強さすべてにおいて他を圧倒するということができることを証明してしまうような作品である。

 火気や爆薬や鮮血や死体の多さだけでは計れないものが、小説というものには確実にあるのだ。こういう作品を読むとぼくはなぜかほっとします。ほっとするような内容とは程遠いバイオレンス小説とも言えるのだけれども。

 大鹿マロイの変種のような、恋に狂った巨魁が悪役。恋のために血も涙も失った怪人としてとてつもない強さと狂気を胸に立ちはだかる様は凄まじい。

 『ハートブレイカー』でもぶっ飛んだ殺し屋を描いてとても印象深かったのだが、その原点はこんなところにもあったのだと思わせる。それほど悪役の描き方が巧いのがフェリーニョだということにぼくは気づいてしまった。

 なお、この作品、最近まで絶版だったのだけれど、俄かに巻き起こったフェリーニョ人気(ほんとか?)のおかげか、重版されています。何せ札幌市内のシベリアと呼ばれるぼくの近所のイトーヨーカ堂にも置いてあった。12月に出たばかりの『ダンスは史の招き』は『チェシャ・ムーン』の続編なので、まずはこちらから読んでおくべきでしょう。

(2000.01.24)
最終更新:2007年07月14日 22:41