無法の二人



題名:無法の二人
原題:BUD GUYS ,(1988)
作者:EUGENE IZZI
訳者:朝倉隆男
発行:ハヤカワ・ミステリアス・プレス文庫 1991.9.30 初刷
価格:\540(本体\524)

 二作目の "ENGLISH VICTIM" が訳出される前に、この作品が出て、そのまた次の作品がこれまた好評を喫しているんだけど、これだけ水準の高いシリーズでは、歯抜けは絶対に許されてはならないのだ。まあ、今のところペーパーバック・クラブに入会する自信のないぼくとしては、なんとも抵抗のしようがないのだけど。

 本書は、刑事に捕まったしつこい犯人の刑事逆恨み復讐サスペンスということで、ああ、ブロックの『墓場への切符』とかマクベインの『熱波』みたいなものだな、と勝手に解釈。古臭いストーリーだけど、総じて面白いと相場が決まってもいるので、まあどの程度のインプロビゼーションをやらかしてくれるのかと、まあ期待いっぱいに読みだしてみたのだけれど・・・・

 なんとまあ、刑事の側が、まともな刑事じゃあないので驚いた。スカダーのように退職刑事でもなければ、バート・クリングのように妻への不信という心の暗闇を抱えた刑事でもない。ここで出てくるジンボ・マリーノは囮捜査官で、マフィアの内情を探っていたのだ。これが問題の囚人ジジの出所によって任務を解かれるところから、本書は始まる。もちろんシリーズを支える組織暴力団幹部連中(一作目と同じボスたちである)の動きや、特捜刑事らの動き(これが二作目なんだそうだ)も眼が離せないが、なんとも本作では二人の決闘者たちのそれぞれの独創的な動きがサスペンスを盛り上げてくれちゃってたまらない。

 逮捕時の素手での15分間の殴り合いを双方ともに自分の人生的視点で恐怖や闘争心とともに回顧するシーンなどは、もう拍手を送りたくなってしまうのだ。お互いへの意識の強さがこの物語の振幅を否が応でも高めてくれる。まあ、なんて美味しい小説なのだろう。

 全体像を眺めてみると一作目とかなりな相似関係にある作品の構図が見えてくる。組織の中でもかなり古く気のあった友人たち。別れの時が必ずやってくるにしても、それを平静には受け止め切れない情けたっぷりで熱い主人公。それでいてクールな生きざまも垣間見せてくれちゃうんだ。そして裏切り者でリアリスティクで計算高い尻軽女。こうした構図は、ほぼ1作2作共通のもの。ようするに同じコード進行の曲を、若干アレグロ気味にぶっ飛ばさせて、楽器を二三増やしてアレンジし直したら、全然別物になったという印象の強い、イジーN第二作だったのである。

 全く橈むことのない鋼のように、シカゴ・シティ・シリーズはどんどん続いてゆくらしい。次々読みたくなってしまうシリーズであること請け合いです。

(1992.12.15)
最終更新:2007年07月14日 22:23