フリージア




作者:東 直己
発行:ハルキ文庫 2000.9.18 初版
価格:\880

 ヒットマンを主人公にした作品群というのはある意味では魅力的だ。その牙が鋭ければ鋭いほど、小説が締まる。マレルのランボーだって一作目の切れ味は鋭かった。マレルはその後の三部作だって特殊能力を持った二人のヒーローのプロフェッショナルな死闘が歴史的と言えるほどに凄惨だった。ラドラムのボーン然り、船戸与一や高村薫はこういうヒーロー像を作り出すことに長けているから、いつも作品に迫力が出るのだとぼくは思う。

 そんなヒットマン型の殺人機械のごとき主人公を登場させたのが、軽ハードボイルドと呼ばれるススキノ探偵シリーズの作者、東直己である。ちなみにぼくはあのシリーズを「軽」とは呼ばない。そこらのハードボイルドが束になっても勝てないほどの確かな小説構築力を持っているのがこの東直己という不良作家なのである。

 東直己は2001年に『残光』で推理作家協会賞を受賞し、これでようやく名が通り、小説で食ってゆける作家になったらしい。その名作『残光』は実を言うとススキノ探偵シリーズの外伝であり、この『フリージア』の続編だ。つまりシリーズにこだわらねば気が済まない読者が、傑作『残光』に辿り着くためには、この『フリージア』とススキノ探偵シリーズを読んでおかねばならないということだ。あちらのシリーズのオールスターキャストを従えて、本書のヒットマン榊原健三が戦う話であるからだ。

 山奥で暮らし、木彫りの梟を彫っている隠遁生活から、ある女性の命を守るためにススキノに戻ってくるヒットマン。抗争。血の雨。修羅場に継ぐ修羅場。息を抜けぬアクションの連続。<動>の小説である。紛れもない一級の娯楽小説である。東直己ワールドをゆくのに、避けて通ることのできない一冊でもある。
最終更新:2007年01月05日 01:57