ディープサウス・ブルース




題名:ディープサウス・ブルース
原題:Dark End Of The Street (2002)
作者:エース・アトキンス Ace Atkins
訳者:小林宏明
発行:小学館文庫 2004.04.01 初版
価格:\695



 いわゆるミュージック・ミステリとでも言おうか。同じ南部の音楽ミステリシリーズとしてはカントリー・ミュージックに材を取ったリック・リオーダン『ホンキートンク・ガール』(カントリー・ミュージック)が記憶に新しいが、こちらのほうは、よりディープに南部音楽へのこだわりを見せ、ストーリーの核に黒人音楽が息づいていることを感じさせる。

 何しろ主役はミシシッピの大学で南部音楽史の教鞭を取る元プロフットボーラー。このニック・トラヴァースのシリーズは第一作『クロスロード・ブルース』(1998年、角川文庫)が邦訳されているが、第二作未訳で、本書は第三作となる。

 1968年、メンフィスに起きた残虐な殺人シーンから、小説はぎらぎらとした熱気のうちに幕を開ける。舞台はいきなり現代に時制を移し、一人称によるニック・トラヴァーズの独白が始まるが、一方で二人の男女の殺し屋に焦点を絞った三人称の物語が同時進行してゆく。いわゆるまっとうなタフガイの捜査行と、プロの殺し屋たちの冷酷な行動とが、交差する地点へ向けて走り抜ける、南部ブルース・スリラーといったところだ。

 なんと言ってもこってりした味わいは、作品の厚みもさることながら、南部的要素の混在にある。人種差別、南北戦争の結果を今も否定するような秘密結社の存在、進み行く選挙戦、カジノを牛耳るディクシー・マフィア、男と女の裏切り、失踪したブルース・シンガー。多くの要素と、多くの人物がひしめく、殺意と欲望のごった煮の中を、分け入るようにして、ニックの捜査が進んでゆく。

 ミステリーとしての起承転結をさらりとではなく、重厚感の中で描き出しつつ、一方で狂った殺し屋たちのおかしさを軽妙に描きつつ、さらに男の殺し屋のほうはこれまでの作品にも登場する凄腕の宿敵扱いというサービス精神も盛り込まれてある。。

 噎せるようなブルースの鳴り響くこってりミステリーが結構、猛暑の夏にはぴったり来るかもしれない。

(2004.08.08)