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*喪失 #amazon(4094054618,right,image) 題名:喪失 原題:Sakmnad (2000) 作者:カーリン・アルヴテーゲン Karin Alvtegen 訳者:柳沢由美子 発行:小学館文庫 2005.1.1 初版 価格:\638  スウェーデン作家による珍しい北欧ミステリ。北欧と言えば、思い浮かべるのはどうしたって、シューヴァル&バールー夫妻によるマルティン・ベックのシリーズ。それにしては、世界を席巻したあれほどのミステリを擁しながら、北欧作品というのは、その後ほとんど目にする機会さえなかった。  マルティン・ベックは1965年から1975年への10年間の作品だから、現代の北欧ミステリに、それらの魂がどのように受け継がれているのかという点では、実に興味深いところだ。本書は、その回答の一つを明確に指し示すものとして、われわれに珍しい機会を与えてくれる一冊である。  何しろ本書は2000年のベスト北欧推理小説賞を受賞、世界20ヶ国で翻訳されているという、逸物なのだ。  映画の小道具係から脚本家を経て、突如彗星の如く現われた女性作家カーリンは、ストックホルムを放浪する女性ホームレスというヒロインを作り出す。主人公は、もとは地方の資産家の娘だが、家柄をめぐる母親との確執の末、18歳にして、自由を手にするためホームレスとなる。  家を捨て、名前を捨てた彼女が、その社会的阻害性ゆえに、サイコパスに利用され、四面楚歌となってゆく過程には、ひとりの女性としての戦いのプレリュードといった趣がある。迷える彼女に、またもさらなる自由を求めさせる助言者となるのが、逃走中に知り合った、孤独な少年である。このあたりは、なんとなく映画『殺しのドレス』のナンシー・アレンとキース・ゴードンの犯人追跡コンビを思わせる。  異常で凄惨なやり方で損壊される被害者の死体に、どのような謎が隠されているのか、というポイントに関しても、本作品は白眉であり、ぼくはM・コナリー『わが心臓の痛み』のプロットのよさを、思い出したほどだ。  ホームレスゆえの自由への誇り。ホームレスゆえのとめどない不安。衝撃のラストシーンは、お約束のようにきちんと恐怖の時間帯をもたらしてくれる。  よく練られ、こなれた感のあるスリラーの傑作であるとともに、一方では、自立した大人の女性小説としての味わいも深く、バランスのよさを感じさせる。次作の『罪』は、実はデビュー作で翻訳が前後したのだが、つい先ごろ(まさに数日前だ)同じ小学館文庫から出版されている。 (2005.05.22)
*喪失 #amazon(4094054618,right,image) 題名:喪失 原題:Sakmnad (2000) 作者:カーリン・アルヴテーゲン Karin Alvtegen 訳者:柳沢由美子 発行:小学館文庫 2005.1.1 初版 価格:\638  スウェーデン作家による珍しい北欧ミステリ。北欧と言えば、思い浮かべるのはどうしたって、シューヴァル&バールー夫妻によるマルティン・ベックのシリーズ。それにしては、世界を席巻したあれほどのミステリを擁しながら、北欧作品というのは、その後ほとんど目にする機会さえなかった。  マルティン・ベックは1965年から1975年への10年間の作品だから、現代の北欧ミステリに、それらの魂がどのように受け継がれているのかという点では、実に興味深いところだ。本書は、その回答の一つを明確に指し示すものとして、われわれに珍しい機会を与えてくれる一冊である。  何しろ本書は2000年のベスト北欧推理小説賞を受賞、世界20ヶ国で翻訳されているという、逸物なのだ。  映画の小道具係から脚本家を経て、突如彗星の如く現われた女性作家カーリンは、ストックホルムを放浪する女性ホームレスというヒロインを作り出す。主人公は、もとは地方の資産家の娘だが、家柄をめぐる母親との確執の末、18歳にして、自由を手にするためホームレスとなる。  家を捨て、名前を捨てた彼女が、その社会的阻害性ゆえに、サイコパスに利用され、四面楚歌となってゆく過程には、ひとりの女性としての戦いのプレリュードといった趣がある。迷える彼女に、またもさらなる自由を求めさせる助言者となるのが、逃走中に知り合った、孤独な少年である。このあたりは、なんとなく映画『殺しのドレス』のナンシー・アレンとキース・ゴードンの犯人追跡コンビを思わせる。  異常で凄惨なやり方で損壊される被害者の死体に、どのような謎が隠されているのか、というポイントに関しても、本作品は白眉であり、ぼくはM・コナリー『わが心臓の痛み』のプロットのよさを、思い出したほどだ。  ホームレスゆえの自由への誇り。ホームレスゆえのとめどない不安。衝撃のラストシーンは、お約束のようにきちんと恐怖の時間帯をもたらしてくれる。  よく練られ、こなれた感のあるスリラーの傑作であるとともに、一方では、自立した大人の女性小説としての味わいも深く、バランスのよさを感じさせる。次作の『罪』は、実はデビュー作で翻訳が前後したのだが、つい先ごろ(まさに数日前だ)同じ小学館文庫から出版されている。 (2005.05.22)

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