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*倒錯の舞踏 #amazon(4576990713,text) 題名:倒錯の舞踏 原題:A DANCE AT THE SLAUGHTERHOUSE ,1991 作者:LAWRENCE BLOCK 訳者:田口俊樹 発行:二見書房 1992.11.25 初版 価格:\1,800(本体\1,800)  別にMWA賞受賞作であるから言うのではないが、今回のスカダーはミック・バルーとのより強き接近を運命づけられた点が、ぼくの評価の最大のポイントです。特に13章はシリーズの中でも屈指の名シーンであるとぼくは勝手に決めさせていただきます。  バルーというのは過去の作品からまあずっと気になっていた存在だった。組織暴力団の一員であり殺人者であろうこともほぼ間違いないと思われるこの人物が、なぜアルコールをやめてからのスカダーと奇妙な夜を時に過ごし、早朝の「肉屋のミサ」を迎えるのか、ぼくはとても不可解だったし(スカダー自身が不可解であると同様に)、それでいて妙に魅力溢れる関係であると思っていた。  他人とのつきあいってけっこうこの不可解さに基本的には支えられているわけだし、その不可解さを整理することなく不合理なままにきちんと描いていけるブロックという作家はそれだけで厚みと誠実さが感じられるのだった。そしてこれまで彼が書こうとしていたスカダーという男の不可解さに、世の不可解さを重ね合わせて改めて照射して見せたのがこの作品なのだと思う。  アル中であることが終わった時点で一旦は終焉するはずだったスカダーの物語が、さらに続いた理由は、作者が「マット・スカダーをもっと書きたかったからだ」と言う。ぼくはアル中であったスカダーがこのシリーズの栄光であった歴史に別に読者としてこだわらなくてもいいと思う。前作ではまだこだわりの抜け切れない自分であったけど、今回の作品で、なんとなく作者の意図が格別アル中なんていうスカダーの内的心理問題にばかり向けられているものでないことが、よおくわかってしまった。  例えば本作は、幼児虐待問題が題材に取られている。幼児と言うより少年少女ってことかもしれないけど、根は同じ。ヴァクスの専門分野にブロックが切り込んでみたということか。そしてこのような問題に取り組むとき、ヴァクスもブロックも殺人者たちを彼らに対峙させているのが、なんとも興味深い気がする。これまで犯罪の最大の罪として扱われてきた<殺人>が、今や最大の罪として君臨できなくなった、そんな病めるアメリカの現状が、こうして表現されてしまっているのかもしれない。  インタビューでもブロックは世の中がどんどん暗くなってきている、というようなことを言っている。その暗い世の中を、結論を急がずに、読者とともに模作するスカダーの姿は、頼もしくはないかもしれないけど、むしろ危なさすら感じさせる本書の結末であったけれど、ぼくには信頼のおける何かである。  そういうファンにしてみれば、今後も年一作書くというブロックの言葉が、とても嬉しい。 (1992/11/10)

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