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*殺戮の天使 #amazon(4054007341,right,image) 題名:殺戮の天使 原題:Fatale (1977) 作者:ジャン=パトリック・マンシェット Jean-Patrick Manchette 訳者:野崎 歓 発行:学習研究社 1996.12.20 初版 価格:\2,000  タイトルがエキセントリック。「殺戮」と「天使」は本来、相反する世界の言葉であるはずだ。原題は "Fatale" ……「宿命の」「破滅へと導く」「不吉な」というような意味の、この場合は語尾に"e"が付いているために、女性形容詞である。簡潔にしてすべてを表わすタイトルなのである。  小説本体にも、それは同じことが言える。簡潔にして明瞭。最低限の描写軸による、ある限定された時間のなかだけを描写。その時間は多くの出会いとアクションに彩られ、退屈な部分がほとんどない。その動的な日々を描きながら、ヒロインである女性殺人者のこれまでの過去を、ほぼ言い尽くそうとしている。その不条理も、混沌もすべてそのままに差し出している。  ふと思う。ある意味語り尽くすより、この方が、ずっと多くを表現してしまうことができるのかもしれない。切り取った断面。映画の世界でも見慣れていると思う。わずかな時間の中で人間を表現し切る。その端的さ。マンシェットの小説表現は限りなく映画に近い。感情描写などはことさら行われない。ハードボイルドのとぎすまされた客観表現による、徹底した距離感のある描写。  その中でいかにヒロインが殺戮を行ってゆくのか。異常者としてではなく、感情のある人間として。魅力ある美のなかで。壊れながら。  淡々として描かれるからこそ、すべてが突発的で驚愕に満ちている。待機のない時間の奔流のなか。疾駆する流れのリズム。すべてが、多くを語られるよりもより寒々と。皮肉に満ちた宿命を匂わせて。出口のない物語。  トンプスンの逸脱が、破綻が、マンシェットのこの作品にも明らかに見られる。徹底した破壊の末には、人間の極北の世界しか見えないのだ。本書は、暗黒小説の地平を極めた作品であると言われる。そういう意味ではどこまでも、ピュアで透明な結末であるように見える。思うに、消滅の美学! (2004.02.22)

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