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*鉤 #amazon(4167661330,right,image) 題名:鉤 原題:The Hook (2000) 作者:ドナルド・E・ウェストレイク Donald E. Westlake 訳者:木村二郎 発行:文春文庫 2003.05.10 初版 価格:\762  『斧』の姉妹編である『鉤』だ。もう、これだけで身震いするほど嬉しい。しかもウェストレイクというブランド保証付き。ドートマンダー・シリーズでもなく、悪党パーカー・シリーズでもなく、文春文庫の不思議な一文字タイトル・シリーズなんである。ああ、どきどきする。ああ、嬉しい。ああ、怖い。  大抵の読者なら、だいたい上のような先入観が、本書を読む前に既にあるわけだ。ぼくなどは、まさに心ウキウキ、顔面ニタニタ状態で本を開き始めてしまうのである。ここまで期待されつつ、保証され、なおかつ読める作家、読めてしまう本というのは、考えてみてもそうはありませんよ。でも、カバー装丁、タイトル、訳者、版元、それぞれが『斧』の路線を思い切り踏襲して姉妹編だぞお、と勢い込んでいる意図もよく伝わってくるし、実際にそこらへんの作品への信頼度というのは並み大抵のものではないのである。  作品だってそれにこたえるしかあるまい。そう、こたえているのだ、確かに。もちろん、『斧』によく似ていると思う。何となく強引に導かれてしまう殺人への逃れなき方向性。客観的にはずいぶんと無理な動機だと思えるのに、何故かリアルにその不自然さを剥離してゆくバックボーン。とにもかくにも迫りくる破滅状況。日常人が殺人者へと踏み越えてしまうショック性。そうしたものがすべて『斧』に共通しているのだ。なるほど、これは姉妹編なのであるなあ、とつくづく……。  ただ冷酷度で言えば、『斧』は、よりブラックで日常性との距離感があって、シンプルな構成でもあると言える。『鉤』は二人の作家による代理殺人がテーマなので、主人公が二人、そして死体はたったの一つ。『斧』ほどには死体がごろごろ続出はしないのである。その分地味だが、心理サスペンスとしては際だって怖いところがある。  いわゆる「より広く、より多く」殺すのが『斧』であったとするならば、「より深く、より濃く」殺すのが『鉤』であるとも言える。殺しのその後の影響度だけとっても、後者の方が遥かに激しいわけだ。  作家が主人公であるだけに、小説作りの舞台裏、作家という職業の影にある見えざる苦悩、あるいは現代出版界の台所事情など、とりわけ面白い。作家志望の人にとっては、多くの教訓を引き出せる作品であるように思う。しかも頻出する主人公たちによる作品アイディアもそれぞれに興味深く、なかには、そのままウェストレイク(あるいはスターク)の手で小説にして欲しいと思われるものもあり、ストーリー以外の読みどころでもサービス感に溢れている。何とも楽しい限り。  『斧』の一人称文体が持つストレートな怖さは本書にはないのだが、逆に三人称文体でもここまでのけぞらせるかというスリリングな描写が、さすがに手練れを感じさせる。  やはり、思った通り、この本は保証された一冊なのであった。 (2003/06/04)
*鉤 #amazon(4167661330,right,image) 題名:鉤 原題:The Hook (2000) 作者:ドナルド・E・ウェストレイク Donald E. Westlake 訳者:木村二郎 発行:文春文庫 2003.05.10 初版 価格:\762  『斧』の姉妹編である『鉤』だ。もう、これだけで身震いするほど嬉しい。しかもウェストレイクというブランド保証付き。ドートマンダー・シリーズでもなく、悪党パーカー・シリーズでもなく、文春文庫の不思議な一文字タイトル・シリーズなんである。ああ、どきどきする。ああ、嬉しい。ああ、怖い。  大抵の読者なら、だいたい上のような先入観が、本書を読む前に既にあるわけだ。ぼくなどは、まさに心ウキウキ、顔面ニタニタ状態で本を開き始めてしまうのである。ここまで期待されつつ、保証され、なおかつ読める作家、読めてしまう本というのは、考えてみてもそうはありませんよ。でも、カバー装丁、タイトル、訳者、版元、それぞれが『斧』の路線を思い切り踏襲して姉妹編だぞお、と勢い込んでいる意図もよく伝わってくるし、実際にそこらへんの作品への信頼度というのは並み大抵のものではないのである。  作品だってそれにこたえるしかあるまい。そう、こたえているのだ、確かに。もちろん、『斧』によく似ていると思う。何となく強引に導かれてしまう殺人への逃れなき方向性。客観的にはずいぶんと無理な動機だと思えるのに、何故かリアルにその不自然さを剥離してゆくバックボーン。とにもかくにも迫りくる破滅状況。日常人が殺人者へと踏み越えてしまうショック性。そうしたものがすべて『斧』に共通しているのだ。なるほど、これは姉妹編なのであるなあ、とつくづく……。  ただ冷酷度で言えば、『斧』は、よりブラックで日常性との距離感があって、シンプルな構成でもあると言える。『鉤』は二人の作家による代理殺人がテーマなので、主人公が二人、そして死体はたったの一つ。『斧』ほどには死体がごろごろ続出はしないのである。その分地味だが、心理サスペンスとしては際だって怖いところがある。  いわゆる「より広く、より多く」殺すのが『斧』であったとするならば、「より深く、より濃く」殺すのが『鉤』であるとも言える。殺しのその後の影響度だけとっても、後者の方が遥かに激しいわけだ。  作家が主人公であるだけに、小説作りの舞台裏、作家という職業の影にある見えざる苦悩、あるいは現代出版界の台所事情など、とりわけ面白い。作家志望の人にとっては、多くの教訓を引き出せる作品であるように思う。しかも頻出する主人公たちによる作品アイディアもそれぞれに興味深く、なかには、そのままウェストレイク(あるいはスターク)の手で小説にして欲しいと思われるものもあり、ストーリー以外の読みどころでもサービス感に溢れている。何とも楽しい限り。  『斧』の一人称文体が持つストレートな怖さは本書にはないのだが、逆に三人称文体でもここまでのけぞらせるかというスリリングな描写が、さすがに手練れを感じさせる。  やはり、思った通り、この本は保証された一冊なのであった。 (2003/06/04)

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