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*第三の時効 #amazon(4087460193,left,image) #amazon(4087746305,image) 題名:第三の時効 作者:横山秀夫 発行:集英社 2003.02.10 初版 価格:\1,700  警察小説で話題の横山秀夫による連作短編集。ぼくは初めて読む作家だがなぜ人気なのかというあたりがよくわかる気がする。警察内部のじくじくとした人間模様を、他の作家のようにしめっぽく追求するわけでもなく、あくまでビジネス・ライクにからりと描いていて、必要以上な暗さ、重さといったものを徹底的に排除しているように見えるのだ。 もしかしたら短編集だからそう感じるのかもしれない。長編はもっとずしりとした手応えがあるのかもしれない。だからと言ってこの短編集が手応えがないというわけではない。ただほとんど、人間臭さを人情劇の方向にはずれ込ませずに、ただただ事件展開やストーリーの面白さのほうに転換して利用しているのだ。そう、人々の性格や刑事たちの妄念のようなものさえ、すべてを道具立てにしてしまうマテリアリズムのような特性を持った小説であるのだ。 組織はシンプル。課内が三つの班に分かれていて、それらを纏め上げる三人の班長が非常に個性的であり、それぞれのやり方における辣腕捜査官でもあるというもの。その下にさらに敏腕刑事たちが、それぞれの個性で勝負しようというもの。だが個性そのものなどは事件の影にすらならず、あくまでめりはり程度の書き込みのわざとらしい浅さ。そう、突っ込まないのである。 たとえば朽木班長は幼児殺しに特別の念を抱いているが、過去に具体的に何があったのかは紹介されない。この紹介されず、説明されることのない、登場人物たちの暗い部分があまりにも多すぎるのだが、この作者はきっとそのあたりの詳細を書くことが本題ではなく(少なくとも本書においては)、むしろ避けたがっているのだろう。 事件そのもののトリックや犯行の事実への迷路を手繰るいわゆる本格推理小説の核を警察小説というオブラートでくるんではみたものの、やはり警察そのものがかもし出す暗闇の濃さという部分には敢えて踏み込まない。事件は事件だ。仕事は仕事だ、といった視点。刑事たちのプライバシーについてこれほど一切語られない小説というのは珍しい。 のめり込む作家でもない代わりに作風は、端的で、ドライで短編の面白みを十分に持っている。器用な作家なのか不器用な作家なのか、この一冊だけではぼくにはわからない。 (ちなみに、現在、収録短編の一つ『密室の抜け穴』をドラマ化したものを放映しているらしい。ちょっとテレビ方面へ急いでみようか) (1993.05.05)
*第三の時効 #amazon(4087460193,left,image) #amazon(4087746305,image) 題名:第三の時効 作者:横山秀夫 発行:集英社 2003.02.10 初版 価格:\1,700  警察小説で話題の横山秀夫による連作短編集。ぼくは初めて読む作家だがなぜ人気なのかというあたりがよくわかる気がする。警察内部のじくじくとした人間模様を、他の作家のようにしめっぽく追求するわけでもなく、あくまでビジネス・ライクにからりと描いていて、必要以上な暗さ、重さといったものを徹底的に排除しているように見えるのだ。 もしかしたら短編集だからそう感じるのかもしれない。長編はもっとずしりとした手応えがあるのかもしれない。だからと言ってこの短編集が手応えがないというわけではない。ただほとんど、人間臭さを人情劇の方向にはずれ込ませずに、ただただ事件展開やストーリーの面白さのほうに転換して利用しているのだ。そう、人々の性格や刑事たちの妄念のようなものさえ、すべてを道具立てにしてしまうマテリアリズムのような特性を持った小説であるのだ。 組織はシンプル。課内が三つの班に分かれていて、それらを纏め上げる三人の班長が非常に個性的であり、それぞれのやり方における辣腕捜査官でもあるというもの。その下にさらに敏腕刑事たちが、それぞれの個性で勝負しようというもの。だが個性そのものなどは事件の影にすらならず、あくまでめりはり程度の書き込みのわざとらしい浅さ。そう、突っ込まないのである。 たとえば朽木班長は幼児殺しに特別の念を抱いているが、過去に具体的に何があったのかは紹介されない。この紹介されず、説明されることのない、登場人物たちの暗い部分があまりにも多すぎるのだが、この作者はきっとそのあたりの詳細を書くことが本題ではなく(少なくとも本書においては)、むしろ避けたがっているのだろう。 事件そのもののトリックや犯行の事実への迷路を手繰るいわゆる本格推理小説の核を警察小説というオブラートでくるんではみたものの、やはり警察そのものがかもし出す暗闇の濃さという部分には敢えて踏み込まない。事件は事件だ。仕事は仕事だ、といった視点。刑事たちのプライバシーについてこれほど一切語られない小説というのは珍しい。 のめり込む作家でもない代わりに作風は、端的で、ドライで短編の面白みを十分に持っている。器用な作家なのか不器用な作家なのか、この一冊だけではぼくにはわからない。 (ちなみに、現在、収録短編の一つ『密室の抜け穴』をドラマ化したものを放映しているらしい。ちょっとテレビ方面へ急いでみようか) (1993.05.05)

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