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*虜 #amazon(4101197164,left,image) #amazon(4104117021,image) 題名:虜 作者:藤田宜永 発行:新潮社 2000.4.20 初版 価格:\1600  犯罪ハードボイルドと、最近めきめきうまくなってきた恋愛小説とを融合させたような、例によって藤田宜永の洗練された文体が踊る、比較的美味しい作品である。  藤田宜永というと、大変地味な印象のある作家かもしれない。FADVで大きく取り上げられたのは『鋼鉄の騎士』くらいかもしれない。あんな大作は他になく、むしろこの作家には地味な佳作が大変に多い。その代わり、外れはあまりない。完成度の高い小説技術と、独特の切り口がいつも彼の作品をきらりと光らせている。  何よりも小説のプロットとかキャラクター云々を言わせる前に、心の琴線をじーんと震わせてしまうストーリー・テリングの魔術が、この作家独自のものなのだと思う。  この作家、ぼくの一押しは港区白金台の洒落た職人たちを扱った不思議な短編集『じっとこのまま』なのだが、昨年の『転々』と言い、冒険小説の雄編『鋼鉄の騎士』と言い、この『虜』と言い、ぜひともFADV者には目を光らせていていただきたい作家の一人なのである。短編も中編も大長編でも何でもござれの作家でもある。  本書はそんな彼の平均的な長編。逃亡者とその妻との関わりを、葉山の別荘を舞台に描いてゆく奇妙な味わいの小説。不思議な時間。どんどん美しくなってゆく妻への未練。巻き戻せない時計。何よりも孤独。人間の弱さ。そして最後に愛(誇り)。  何とも素敵で悲しい物語。電線に引っかかってしまう凧というのが、主人公の運命を象徴しているようでもあり、作中いい小道具になっていて物悲しくも印象的だった。一見、畑違いのようだが、実のところフィルム・ノワールのタッチで映画化していただきたいような作品でもある。  渋く素敵なラストシーンのある物語というのは、それだけですべてを許してしまえる気がしてくるから不思議である。ラストシーンのために積み上げられた物語。そういう作品が今どれだけあるだろう?  (2000.06.25)

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