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*ベスト・アメリカン・ミステリ スネーク・アイズ
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題名 ベスト・アメリカン・ミステリ スネーク・アイズ
原題:The Best American Mystery Stories 2004(2004)
作者:ネルソン・デミル&オットー・ペンズラー編 Nelson DeMille, Otto Penzler
訳者:田村義進、他
発行:ハヤカワ・ミステリ 2005.12.15 初版
価格:\1,900
アンソロジーのバイブルみたいな名シリーズである。ハヤカワが二年遅れくらいのテンポで翻訳出版を続けてくれるので、短編ファンにとっては有難い。
50本の短編に絞る役割をペンズラーが行い、その内から20本を選び出す責任ある作業を、ゲスト作家に任せる。ゲスト作家の方は、最後の篩い分けという酷な決定を課されることになるが、ある程度、作家ならではのカラーも出るようである。最初のうちは、エド・マクベインやローレンス・ブロック、ドナルド・E・ウェストレイクなど、自ら短編も得意とする、言わば余裕のある大御所作家をゲストに招いていたが、その後、マイクル・コナリー、ネルソン・デミルとどちらかと言えば短編のイメージからはほど遠い作家をゲストに招いているあたり、オットー・ペンズラーの胸襟の広さを窺わせるものがある。
本作は、ネルソン・デミルのカラーなのか、短編そのものが客観的に秀逸だというクールな理由なのか、有名どころ作家を抑えに抑えて、新人作家や短編専門作家の名前がずらりと並んでいる。つまり素人の翻訳小説読みである我々が手にとって馴染みの感じられる作家が少なく、売り上げに影響ありかと心配されるほどのラインナップなのである。
登場す大御所としてはスティーヴン・キングくらいか。翻訳され活躍してきた作家というあたりでは、ジェフ・アボット、ジャック・オコネル、ディック・ロクティなどの名が 並んでいる。
また、有名どころというのでなくても、連続してこのアンソロジーに登場している短編作家としては、スコット・ウォルヴン、ジョイス・キャロル・ウォーツの名があるが、後者は、本シリーズ2005年版のゲスト・エディターにも選ばれている。
選ばれた作品は、前年度版に続いて、重たい内容のものが多く、殺人を扱ったミステリーというより、人間の闇の部分を掘り下げた純文学とでも言えるような懲りに凝った作品がスタートダッシュを占める。そして次第に作品が短くなるが、後半は娯楽色を取り戻したアイディアものが多くなってゆく。それでも全体像は、B級短編といった乗りの純娯楽作品ではなく、人との人との距離の間に巻き起こる疑惑、不審といったものから、次第に高まってゆく殺意、破滅といった構図のものが多く、日本でも暗黒小説が凱歌を挙げているシーズンと相まって、当然9・11の長い影も引きずりながら、作品たちからは病んだアメリカの悲鳴が、どこかで軋みのように聴こえてくる気がする。
こうしたアンソロジーの魅力は、新しい才能の発見であろう。何よりもペンズラーのようなプロのアンソロジストが最も幸せになる瞬間は、自らが紹介した無名作家が世界に翔くような一流作家に変身してゆくときであるに違いない。本書からは『真夜中の青い彼方』でジョナサン・キングがMWA新人賞を獲得、その後シリーズを四本も続けているというが、早川書房から同作品は出版済み。本書短編を読む限りしっかりとしたハードボイルドの書き手との好印象であるが、本アンソロジーのタイトルにその『スネーク・アイズ』が使用されたのも、版元からの信頼、期待の厚さ故だろう。
(2007.06.03)
*ベスト・アメリカン・ミステリ スネーク・アイズ
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題名 ベスト・アメリカン・ミステリ スネーク・アイズ
原題:The Best American Mystery Stories 2004(2004)
作者:ネルソン・デミル&オットー・ペンズラー編 Nelson DeMille, Otto Penzler
訳者:田村義進、他
発行:ハヤカワ・ミステリ 2005.12.15 初版
価格:\1,900
アンソロジーのバイブルみたいな名シリーズである。ハヤカワが二年遅れくらいのテンポで翻訳出版を続けてくれるので、短編ファンにとっては有難い。
50本の短編に絞る役割をペンズラーが行い、その内から20本を選び出す責任ある作業を、ゲスト作家に任せる。ゲスト作家の方は、最後の篩い分けという酷な決定を課されることになるが、ある程度、作家ならではのカラーも出るようである。最初のうちは、エド・マクベインやローレンス・ブロック、ドナルド・E・ウェストレイクなど、自ら短編も得意とする、言わば余裕のある大御所作家をゲストに招いていたが、その後、マイクル・コナリー、ネルソン・デミルとどちらかと言えば短編のイメージからはほど遠い作家をゲストに招いているあたり、オットー・ペンズラーの胸襟の広さを窺わせるものがある。
本作は、ネルソン・デミルのカラーなのか、短編そのものが客観的に秀逸だというクールな理由なのか、有名どころ作家を抑えに抑えて、新人作家や短編専門作家の名前がずらりと並んでいる。つまり素人の翻訳小説読みである我々が手にとって馴染みの感じられる作家が少なく、売り上げに影響ありかと心配されるほどのラインナップなのである。
登場す大御所としてはスティーヴン・キングくらいか。翻訳され活躍してきた作家というあたりでは、ジェフ・アボット、ジャック・オコネル、ディック・ロクティなどの名が 並んでいる。
また、有名どころというのでなくても、連続してこのアンソロジーに登場している短編作家としては、スコット・ウォルヴン、ジョイス・キャロル・ウォーツの名があるが、後者は、本シリーズ2005年版のゲスト・エディターにも選ばれている。
選ばれた作品は、前年度版に続いて、重たい内容のものが多く、殺人を扱ったミステリーというより、人間の闇の部分を掘り下げた純文学とでも言えるような懲りに凝った作品がスタートダッシュを占める。そして次第に作品が短くなるが、後半は娯楽色を取り戻したアイディアものが多くなってゆく。それでも全体像は、B級短編といった乗りの純娯楽作品ではなく、人との人との距離の間に巻き起こる疑惑、不審といったものから、次第に高まってゆく殺意、破滅といった構図のものが多く、日本でも暗黒小説が凱歌を挙げているシーズンと相まって、当然9・11の長い影も引きずりながら、作品たちからは病んだアメリカの悲鳴が、どこかで軋みのように聴こえてくる気がする。
こうしたアンソロジーの魅力は、新しい才能の発見であろう。何よりもペンズラーのようなプロのアンソロジストが最も幸せになる瞬間は、自らが紹介した無名作家が世界に翔くような一流作家に変身してゆくときであるに違いない。本書からは『真夜中の青い彼方』でジョナサン・キングがMWA新人賞を獲得、その後シリーズを四本も続けているというが、早川書房から同作品は出版済み。本書短編を読む限りしっかりとしたハードボイルドの書き手との好印象であるが、本アンソロジーのタイトルにその『スネーク・アイズ』が使用されたのも、版元からの信頼、期待の厚さ故だろう。
(2007.06.03)