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*制服捜査 #amazon(4104555045,right,text,image) 題名:制服捜査 作者:佐々木 譲 発行:新潮社 2006.3.25 初版 2006.5.10 3版 価格:\1,600  交番の警察官を主人公にした小説というのは珍しい。少なくとも交番のリアリスムを、小説の主題にこれほど意図的に溶け込ませ、タイトルで豪語してみせるほどの作品は。  都市に背を向け、常に荒野を目指そうとする作家、佐々木譲が、北海道十勝の片田舎にある架空の町を舞台に、誰もやったことのない駐在小説を、ミステリという形で世に問うてみせたこの作家的積極姿勢は、とても斬新で頼もしく思える。  事件は現場にある、と叫ぶ都会の刑事をあたかも嘲笑するが如く、現場感覚を身に纏って生きる交番の制服警察官こそが、常々土地に密着して起きる事件の本当の主役だと言わんばかりの充実した連作作品集であるところが嬉しい。  広大な土地、わずかな一握りの人口。刑事畑一筋だった主人公・川久保は、道警不祥事のあおりで、駐在勤務を命じられる。捜査の第一線に加われないながらも、そこに町民とともに暮らし、生きる一人の男が、日常生活の営みという形で捜査を進めてゆく。  はじめに日常職務がありき、である。パトロールがあり、交通事故や火災への緊急通報があり、待機そのものも仕事であるために、酒も呑まず、村の長老たちからの苦情を聞き、町役場からの圧力を受けては、耐える。プレッシャーと縛りの多い彼の孤独な環境が、作品全般を通じて語られる。しかし真情の吐露はどこにもない。物言わぬ一警官であることを徹した文体が、作品を紡いでゆく。  かくも限定された条件の中で追う時間だからこそ、好奇心が擽られる。顔のない制服警察官であることは、個性を前面に出すことなく、町の日常生活に埋もれて、真相を追い詰めてゆくことを強いられる。  大きな事件らしき事件は少ないながらも、土地に流れる時間は決して平穏ではない。少数の弱者が、わずかな権力者の圧力に負け、目に見えない被害にあっていることもある。家族と見えた一家が外には出さぬ恩讐を内に秘めて対立生活を繰り返している逼迫した状況がある。外からやってきた不審な路上生活者があれば、被害を受けて追放される余所者もいる。町にいることができなくなった出奔者の絶望だってある。  犯罪発生率最低の町だからこそ、表面に姿を現さない事件があり、警察官はその熾火を嗅ぎ出さねばならない。人口が少ないとは言え、人の集まるところにトラブルは絶えず、人は往々にして愚かな行動を取るものだ。われわれが敬遠しがちな交番の制服警官という職業の、良心の側から見た小説が本書で書かれた世界であろう。  良心ではなく悪徳交番警官の屈折を通して見た交番小説というものも誰かが書いてくれないものだろうか。実際の道警や、現職警察官の勤務態度、日中いつも空っぽの交番、交通取締の無意味かつ不公平な人海戦術、といったものばかりを見させられていると、本書のような善意の小説ばかりでは不公平ではないかという懐疑心が、頭の片隅にどうしても残ってしまうからである。 (2006/06/11)
*制服捜査 #amazon(4104555045,right,text,image) 題名:制服捜査 作者:佐々木 譲 発行:新潮社 2006.3.25 初版 2006.5.10 3版 価格:\1,600  交番の警察官を主人公にした小説というのは珍しい。少なくとも交番のリアリスムを、小説の主題にこれほど意図的に溶け込ませ、タイトルで豪語してみせるほどの作品は。  都市に背を向け、常に荒野を目指そうとする作家、佐々木譲が、北海道十勝の片田舎にある架空の町を舞台に、誰もやったことのない駐在小説を、ミステリという形で世に問うてみせたこの作家的積極姿勢は、とても斬新で頼もしく思える。  事件は現場にある、と叫ぶ都会の刑事をあたかも嘲笑するが如く、現場感覚を身に纏って生きる交番の制服警察官こそが、常々土地に密着して起きる事件の本当の主役だと言わんばかりの充実した連作作品集であるところが嬉しい。  広大な土地、わずかな一握りの人口。刑事畑一筋だった主人公・川久保は、道警不祥事のあおりで、駐在勤務を命じられる。捜査の第一線に加われないながらも、そこに町民とともに暮らし、生きる一人の男が、日常生活の営みという形で捜査を進めてゆく。  はじめに日常職務がありき、である。パトロールがあり、交通事故や火災への緊急通報があり、待機そのものも仕事であるために、酒も呑まず、村の長老たちからの苦情を聞き、町役場からの圧力を受けては、耐える。プレッシャーと縛りの多い彼の孤独な環境が、作品全般を通じて語られる。しかし真情の吐露はどこにもない。物言わぬ一警官であることを徹した文体が、作品を紡いでゆく。  かくも限定された条件の中で追う時間だからこそ、好奇心が擽られる。顔のない制服警察官であることは、個性を前面に出すことなく、町の日常生活に埋もれて、真相を追い詰めてゆくことを強いられる。  大きな事件らしき事件は少ないながらも、土地に流れる時間は決して平穏ではない。少数の弱者が、わずかな権力者の圧力に負け、目に見えない被害にあっていることもある。家族と見えた一家が外には出さぬ恩讐を内に秘めて対立生活を繰り返している逼迫した状況がある。外からやってきた不審な路上生活者があれば、被害を受けて追放される余所者もいる。町にいることができなくなった出奔者の絶望だってある。  犯罪発生率最低の町だからこそ、表面に姿を現さない事件があり、警察官はその熾火を嗅ぎ出さねばならない。人口が少ないとは言え、人の集まるところにトラブルは絶えず、人は往々にして愚かな行動を取るものだ。われわれが敬遠しがちな交番の制服警官という職業の、良心の側から見た小説が本書で書かれた世界であろう。  良心ではなく悪徳交番警官の屈折を通して見た交番小説というものも誰かが書いてくれないものだろうか。実際の道警や、現職警察官の勤務態度、日中いつも空っぽの交番、交通取締の無意味かつ不公平な人海戦術、といったものばかりを見させられていると、本書のような善意の小説ばかりでは不公平ではないかという懐疑心が、頭の片隅にどうしても残ってしまうからである。 (2006/06/11)

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