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耳を傾けよ!」(2007/05/27 (日) 17:15:33) の最新版変更点

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*耳を傾けよ! #amazon(415001776X,right,text,image) 題名:耳を傾けよ! 原題:Hark! (2004) 作者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:山本 博 発行:ハヤカワ・ミステリ 2005.10.31 初版 価格:\1,400  メインストーリーの合間に、沢山のエピソードが含まれて、キルトのようにカラフルな小説があったっていい。ぎすぎすした事件を、一定の緊張感を保ったまま読ませてゆく小説もあれば、気になる犯罪の謎とはまったく無関係の物語を同時進行させてゆく、どちらかと言えば、キャラクター造形にページを費やす贅沢が許される作品もあるわけだ。  同じようにエピソードを沢山作中に含ませる作家として有名なのはロバート・B・パーカーだけど、一人称小説のエピソードはどうしても語り手を中心としたサブストーリーになりがちだ。だから深く一人称語り手の主人公の生活に絡んだエピソードで楽しめる傾向にあるのだと思う。それはそれでいい。  本シリーズのように三人称のエピソードの場合、むしろシリーズ・レギュラーばかりではなく、犯罪者や脇役たちのエピソードを駆使することができる。むしろ87分署シリーズは、そうした楽しみが特徴にもなっている。  エピソードで脇道に入るのを嫌がる作品もあれば、一人称で主人公のプライベイト・ライフを掘り下げる作品もあり、また多くの人間群像を多くのエピソードで縫いこんでゆく作品もある。読者によっては、ある傾向を好んだり嫌ったりするだろう。世の中には沢山の読者がいるのだから、傾向の違った作品が存在する方がありがたい。  さて今年、ついに亡くなってしまったマクベインの遺作に近い、超ロングシリーズ87分署の最新翻訳は、待ちに待った宿敵デフ・マンの登場篇。何と本書で6作目の登場となる。いつもすんでのところで逃げ飛びては87分署への挑戦を繰り返す、天才犯罪者は、本書では冒頭から登場する。  やりかけのエピソードには必ず落とし前をつけてゆくシリーズだから、何作も前の恨みを晴らすために、久しぶりに戻ってくる犯罪者という存在は、このシリーズでは別に珍しいことでもなんでもない。  コットン・ホース、バート・クリング、ハル・ウィリス、オリー・ウィークスといったところのその後の恋の進行もそれぞれにカラフルだ。キャレラの母と妹のそれぞれの再婚話や、憂鬱なキャレラの表情も読みどころだ。  ホースは狙撃され、オリーは盗まれた原稿をまだなお探し続ける。このシリーズでは、多くの事件が同時に進行してゆくのが、当たり前のようになっている。  そうしたすべての物語たちが継続してこれたのも、作者が決して書くのをやめなかったからである。ぼくらは作者が書き続ける限り、一定レベルで面白さをキープしてきたこのシリーズを延々と読み続けてきたわけである。その作者が、終に亡くなってしまった。多くの物語がこれで否応なく終わをを迎えてしまう。もう少しで二度と彼ら刑事たちに会うことができない時がやってくる。何でも87分署は、この作品ともう一作しか遺されてはいないようである。  次作は、原題だけを見ると、どうやら本書のダイレクトな続編になりそうな気配だ。生き生きと日々を送るレギュラーメンバーの最後の表情がどんなになるのか、ぼくは想像する。そして何よりも、もうこの世にいなくなってしまったマクベインのあれこれを偲び、何とも切なく悲しい気持ちでいっぱいになる。とりわけ、こうして新作を読んだ直後には、とても思いが深くなる。  87分署よ、永遠なれ! (2005/12/11)
*耳を傾けよ! #amazon(415001776X,right,text,image) 題名:耳を傾けよ! 原題:Hark! (2004) 作者:エド・マクベイン Ed McBain 訳者:山本 博 発行:ハヤカワ・ミステリ 2005.10.31 初版 価格:\1,400  メインストーリーの合間に、沢山のエピソードが含まれた、キルトのようにカラフルな小説があったっていい。ぎすぎすした事件を、一定の緊張感を保ったまま読ませてゆく小説もあれば、気になる犯罪の謎とはまったく無関係の物語を同時進行させてゆく、どちらかと言えば、キャラクター造形にページを費やす贅沢が許される作品もあるわけだ。  同じようにエピソードを沢山作中に含ませる作家として有名なのはロバート・B・パーカーだけど、一人称小説のエピソードはどうしても語り手を中心としたサブストーリーになりがちだ。だから深く一人称語り手の主人公の生活に絡んだエピソードで楽しめる傾向にあるのだと思う。それはそれでいい。  本シリーズのように三人称のエピソードの場合、むしろシリーズ・レギュラーばかりではなく、犯罪者や脇役たちのエピソードを駆使することができる。むしろ87分署シリーズは、そうした楽しみが特徴にもなっている。  エピソードで脇道に入るのを嫌がる作品もあれば、一人称で主人公のプライベイト・ライフを掘り下げる作品もあり、また多くの人間群像を多くのエピソードで縫いこんでゆく作品もある。読者によっては、ある傾向を好んだり嫌ったりするだろう。世の中には沢山の読者がいるのだから、傾向の違った作品が存在する方がありがたい。  さて今年、ついに亡くなってしまったマクベインの遺作に近い、超ロングシリーズ87分署の最新翻訳は、待ちに待った宿敵デフ・マンの登場篇。何と本書で6作目の登場となる。いつもすんでのところで逃げ飛びては87分署への挑戦を繰り返す、天才犯罪者は、本書では冒頭から登場する。  やりかけのエピソードには必ず落とし前をつけてゆくシリーズだから、何作も前の恨みを晴らすために、久しぶりに戻ってくる犯罪者という存在は、このシリーズでは別に珍しいことでもなんでもない。  コットン・ホース、バート・クリング、ハル・ウィリス、オリー・ウィークスといったところのその後の恋の進行もそれぞれにカラフルだ。キャレラの母と妹のそれぞれの再婚話や、憂鬱なキャレラの表情も読みどころだ。  ホースは狙撃され、オリーは盗まれた原稿をまだなお探し続ける。このシリーズでは、多くの事件が同時に進行してゆくのが、当たり前のようになっている。  そうしたすべての物語たちが継続してこれたのも、作者が決して書くのをやめなかったからである。ぼくらは作者が書き続ける限り、一定レベルで面白さをキープしてきたこのシリーズを延々と読み続けてきたわけである。その作者が、終に亡くなってしまった。多くの物語がこれで否応なく終わをを迎えてしまう。もう少しで二度と彼ら刑事たちに会うことができない時がやってくる。何でも87分署は、この作品ともう一作しか遺されてはいないようである。  次作は、原題だけを見ると、どうやら本書のダイレクトな続編になりそうな気配だ。生き生きと日々を送るレギュラーメンバーの最後の表情がどんなになるのか、ぼくは想像する。そして何よりも、もうこの世にいなくなってしまったマクベインのあれこれを偲び、何とも切なく悲しい気持ちでいっぱいになる。とりわけ、こうして新作を読んだ直後には、とても思いが深くなる。  87分署よ、永遠なれ! (2005/12/11)

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