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*通り魔
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題名:通り魔
原題:The Mugger (1956)
著者:エド・マクベイン Ed McBain
訳者:田中小実昌
発行:ハヤカワ文庫HM 1976.4.30 1刷
<87分署>ニ作目。ここではキャレラが新婚旅行中につき、バート・クリングが中心となって活躍する。やはり、本作もいい。ただし、ここで知り合うクレア・タウンゼントはいつか殺されてしまうらしい。それがわかっているのが悲しい。なにしろシリーズのリストに『クレアが死んでいる』という作品があるのだ。これはもう、ネタばらししたのはぼくではないと言えるだろう。刹那的な邦題を考え出した出版社め!
これはよくある話なのだけれど、出版順に読もうと考えたぼくは、本書に続いてぼ『われらがボス』を読み始めたのだが、慌てて伏せることになった。順番が違う。『われらがボス』はずっとずっとあとの話ではないか。クレアが死んだのは十三年前のこと、なんていう記述に眼が行ってしまったのだ。それも最初のニページ目に。だからこれもとりわけぼくによるネタばらしではないだろう。邦訳の順番ということでは本当にたびたび興が削がれる。日本人の悲劇。さて『通り魔』のあとは本来は『麻薬密売人』へと続く。ぼくはすぐにそちらへ切り換えたけれども、流れのあるシリーズものについては、ほんとうによく注意したほうがいいという一例である。
さて、そのクレアに本書では恋をしてゆくバート・クリング。デートのシーンの描写がいい。マクベインは、決してわき役もおろそかに描きはしない。きちんと心を宿してあげている。あまりにも美しいシーン。洒落た会話。
前作と同様、犯人についてはだいたい察しがつくのだが、このシリーズは推理小説ではない。あくまで暴力的な、生き物としての街を舞台に据えたヒューマンなドラマとの実感をますます強くする。このシリーズをぼくは既に22冊も買ってしまった。黄色い背表紙が書棚に入り切れずに溢れている、という幸せ……。
(1990.03.23)