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*夜空のむこう #amazon(408774695X,text,image) 題名:夜空のむこう 作者:香納諒一 発行:集英社 2004.05.10 初版 価格:\2,200  「夜空ノムコウ」という曲が川村結花やSMAPによってヒットしたのは1998年頃のこと。本書は長編大河小説みたいでもあるが、基本的には連作短編集と言ってしまったほうがいいように思える。1999年の秋から雑誌に半年、あるいは三ヶ月おきくらいに掲載されて2003年の3月に最後の章が書かれている。掲載時には『エディターズ・ライターズ』というタイトルだったこの最後の作品が、単行本に纏められた2004年の時点では『夜空の向こう』と改められ、そのまま表題作となった。ヒットした漢字+カタカナの歌とは何の関係もないだろうが、『エディターズ・ライターズ』よりはよほど庶民受けすることだろう。  本来ハードボイルドや冒険小説作家である香納諒一が、短編小説を書くときには、そうした自己規定の鎧をすっかり外してしまうのは、今に始まったことじゃない。作家になる前の香納諒一が、一体どんな職業に就いていたのかは知らないが、ひょっとすると本書は、香納諒一の作家デビューする前の足取りに近いものがあるのではないだろうか。  ピントが完全に外れているかもしれないのだが、本書はマンガ編集者から始まり、出版プロダクションを仲間と共同で立ち上げで、最後には作家デビューを果たそうとする一人の青年の物語だ。編集やライターとしての経済活動のさなかで、出会ったり別れたりしてゆく多くの友人……男たちや女たちを通じて、人と人との関わりの一瞬の輝き、切なさ、そして孤独に帰ったり、温もりの中にもう一度踏み出して行ったりといった心の交流の個人史みたいな部分に強い印象がある。  結婚したり、これはと思う職業で順調に乗り出したりするまでの、不安定で、完全性を欠いた時期が青春であるのなら、それは誰もが少なからず経験し、潜り抜けてゆくものと言っていいだろう。その誰にでもある日常を通して、大きく変わってゆく仲間たちとの距離、新しい生活への道程、自分を掴んでゆくために、掌を差し伸べ暗闇をまさぐってゆく時代を、大切に振り返る、そんな時間を人は知らず自然に持つことがあるだろう。この本のこの物語たちは、そうした時間の中に置き去りにされ、いつか忘れられ遠ざかってゆく青春のきらきらした光みたいなものばかりだ。  おそらくは長い時間を使って書き継がれてゆく連作短編というかたちが、本書のような物語を紡ぐのに最適と判断されたものに違いない。作者は『ガリレオの小部屋』のあとがきにて、短編作品は、最後に単行本に纏められたときの一冊の本をイメージして書く、ということを独白している。本書を構想したときには『夜空のむこう』というタイトルのこの本をイメージしていたのだろうか? スガシカオというカタカナ大好きなアーティストが、「夜空ノムコウ」というカタカナの歌詞を作った時代のすぐ後に、この歌に想起されて書き始めた物語であったのだろうか。  作者の作品に対する秘密は、誰も知らない。その秘密のひとかけらひとかけらが、あるいはこの作品集のページページの間に、少しずつしおりのように挟まっているような気がしないでもないのだが……。 (2007/04/14)

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