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*『再起』 #amazon(415208779X,right,image) 題名:再起 原題:Under Orders (2006) 著者:ディック・フランシス Dick Francis 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ・ノヴェルズ 2006.12.15 初版 価格:\1,900  競馬シリーズ全作品を、二文字熟語タイトルにはいつもその苦労が偲ばれる。その最終選択には、結果として感心し続けてきた気がする。しかし、それにしても、本書、このタイトルほどに、感慨深い思いを迫られる邦題タイトルが、あったろうか。フランシス・ファンならずとも、この心憎く意味深いタイトルの価値は、伝わってゆくのではないか。  ディック・フランシスという作家は、ことサービス精神には事欠かない人なのだが、本書では6年ぶりの復活を遂げると同時に、起用した主人公が何とあのシッド・ハレーである。職業は元チャンピオン・ジョッキーでありながら、負傷により引退を迫られた調査員。その実は競馬関連の私立探偵である。  フランシスの小説は、もともと職業を重視する。職業こそがその小説の主役であると言っていいくらい、近年のフランシス作品はさまざまな職業世界に材を取り、犯罪の罠を忍ばせ、一方で専門能力を駆使して悪と闘う人々を書いてきた。 だが、フランシスにとっての職業と言えば、本命はやはり騎手でなければならなかったろう。  思えば、デビュー作である『本命』は、若き騎手が主役である。『侵入』『連闘』はチャンピオン・ジョッキー、キット・フィールディングの連続シリーズであった。『大穴』『利腕』『敵手』に続く本書は、元騎手シッド・ハレーのシリーズだ。  シッドは、今もなお馬たちの障害レースに熱いものを感じ、その世界に身を置こうという意志の強い主人公である。元チャンピオン・ジョッキーである作家フランシスが、最も活き活きと描く職業は、やはり騎手、あるいは元騎手であり、その栄光の世界に生きたからこその誇り、そして頑迷を内に秘めた人間像を、作家はこのシッドという主人公に託し、投影しているのである。。  久々に、ページの向うに、実際には観た経験のない異国の障害レース、とその場所における独特の活気が立ち昇ってゆくのを感じることができた。  さすがに6年のブランクの間には、シッドの生きるイギリスの片田舎にも、インターネット・ギャンブルのウェブサイトなどという、新手の世界が訪れる。シッドのように古いタイプの調査員が挑まねばならないのは、どこかの町に巣食う賭け屋たちではなく、今や、バーチャルなネットであり、仕組みさえわかり難い抽象の存在である。そんな中で証拠のビデオテープをせっせとコピーするシッドの姿のアナログさは、80代になるというフランシスが、現在の様変わりした犯罪手口のなかで、苦しみながらもプロットを作り出す一種の頑固なエネルギーとして、重なって見える。  シッドだからか、6年越しの作品だからか、新しい恋人とのラブシーン、与えられる暴力によるダメージの深さ、クライマックスの迫力あるアクションシーン等々、すべてにおいてサービス精神満天の、これは力作である。  何よりも、暴力に屈しない精神力。シッドの最大の特徴を踏まえてプロットを作っている。それに加え、愛や友情を持ち寄った周囲の人間たちとの絆をいつも以上に描いている。 へこたれそうになったとき、誇りを取り戻すべきときなどに、この本は何よりも心の支えになってくれるだろう。この作品は、人間が自然に備えている種類の生命エネルギーのエッセンスで満ち溢れている。チャンピオン・ジョッキーの力は未だにこの作品に満ち溢れ、その血の熱さが伝わってくるのを否応なく感じることができる。フランシス以外にはもはやなかなか見つけることのできない、それは王者の特性であるのかもしれない。 (2007/02/25)
*『再起』 #amazon(415208779X,right,image) 題名:再起 原題:Under Orders (2006) 著者:ディック・フランシス Dick Francis 訳者:北野寿美枝 発行:ハヤカワ・ノヴェルズ 2006.12.15 初版 価格:\1,900  競馬シリーズ全作品を、二文字熟語タイトルにはいつもその苦労が偲ばれる。その最終選択には、結果として感心し続けてきた気がする。しかし、それにしても、本書、このタイトルほどに、感慨深い思いを迫られる邦題タイトルが、あったろうか。フランシス・ファンならずとも、この心憎く意味深いタイトルの価値は、伝わってゆくのではないか。  ディック・フランシスという作家は、ことサービス精神には事欠かない人なのだが、本書では6年ぶりの復活を遂げると同時に、起用した主人公が何とあのシッド・ハレーである。職業は元チャンピオン・ジョッキーでありながら、負傷により引退を迫られた調査員。その実は競馬関連の私立探偵である。  フランシスの小説は、もともと職業を重視する。職業こそがその小説の主役であると言っていいくらい、近年のフランシス作品はさまざまな職業世界に材を取り、犯罪の罠を忍ばせ、一方で専門能力を駆使して悪と闘う人々を書いてきた。 だが、フランシスにとっての職業と言えば、本命はやはり騎手でなければならなかったろう。  思えば、デビュー作である『本命』は、若き騎手が主役である。『侵入』『連闘』はチャンピオン・ジョッキー、キット・フィールディングの連続シリーズであった。『大穴』『利腕』『敵手』に続く本書は、元騎手シッド・ハレーのシリーズだ。  シッドは、今もなお馬たちの障害レースに熱いものを感じ、その世界に身を置こうという意志の強い主人公である。元チャンピオン・ジョッキーである作家フランシスが、最も活き活きと描く職業は、やはり騎手、あるいは元騎手であり、その栄光の世界に生きたからこその誇り、そして頑迷を内に秘めた人間像を、作家はこのシッドという主人公に託し、投影しているのである。。  久々に、ページの向うに、実際には観た経験のない異国の障害レース、とその場所における独特の活気が立ち昇ってゆくのを感じることができた。  さすがに6年のブランクの間には、シッドの生きるイギリスの片田舎にも、インターネット・ギャンブルのウェブサイトなどという、新手の世界が訪れる。シッドのように古いタイプの調査員が挑まねばならないのは、どこかの町に巣食う賭け屋たちではなく、今や、バーチャルなネットであり、仕組みさえわかり難い抽象の存在である。そんな中で証拠のビデオテープをせっせとコピーするシッドの姿のアナログさは、80代になるというフランシスが、現在の様変わりした犯罪手口のなかで、苦しみながらもプロットを作り出す一種の頑固なエネルギーとして、重なって見える。  シッドだからか、6年越しの作品だからか、新しい恋人とのラブシーン、与えられる暴力によるダメージの深さ、クライマックスの迫力あるアクションシーン等々、すべてにおいてサービス精神満天の、これは力作である。  何よりも、暴力に屈しない精神力。シッドの最大の特徴を踏まえてプロットを作っている。それに加え、愛や友情を持ち寄った周囲の人間たちとの絆をいつも以上に描いている。 へこたれそうになったとき、誇りを取り戻すべきときなどに、この本は何よりも心の支えになってくれるだろう。この作品は、人間が自然に備えている種類の生命エネルギーのエッセンスで満ち溢れている。チャンピオン・ジョッキーの力は未だにこの作品に満ち溢れ、その血の熱さが伝わってくるのを否応なく感じることができる。フランシス以外にはもはやなかなか見つけることのできない、それは王者の特性であるのかもしれない。 (2007/02/25)

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