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*魔力の女 #amazon(4062752344,right,image) 題名:魔力の女 原題:Sleep No More (2002) 作者:グレッグ・アイルズ Greg Iles 訳者:雨沢 泰 発行:講談社文庫 2005.11.15 初刷 価格:\1,086  グレッグ・アイルズの小説としては、極めて異色だとしか言いようがない。歴史に材を取ったり、精緻なサイコ・スリラーを描いたりと、どれをとっても凝りに凝った仕掛けと精密なプロットで読者を唸らせてきた作家である。その彼が、たいへん自由度の高いテーマに手を出した。どちらかと言えばスティーヴン・キング系の「あれ」である。  ミシシッピ州ナチェズで石油試掘地点を投資家に助言する仕事をしている主人公ジョン・ウォーターズの前に、突然謎の美女が現れる。ナチェズの不動産会社を営むイヴ・サムナーである。彼女は徐々に接近を迫り、挙句に、自分はジョンの死んだ恋人マロリー・キャンドラーだと名乗る。そして当人たちだけが知りうる数々の過去記憶を告げてゆく。このあたりの異常な会話、主人公の動揺と、強烈な描写力に読者はまず嵌まるはずだ。  マロリーの過去生を知る全く他人である女の出現がまず不思議である。さらに物語は驚愕の展開を見せ、マロリーは次々と……。まるで飯田譲治『アナザヘヴン』で描かれた脳の捕食者のようである。そのエネルギーは、死んだマロリーのジョンへの未練であろう。まるで映画『危険な情事』の持つ悪夢性もが、主人公の一家を捉えてゆく。  いわゆる超現実的な現象が、ミシシッピの片田舎の極めて現実的な描写の中に緻密にリアルに埋め込まれてゆくのだ。極めてアンバランスと思われる両者を融合させるという離れ業を、アイルズの筆力がしっかりとやり遂げ、読者には今までにない種類のサスペンスを繰り広げてくれるわけだが、常に超常現象に対し、アンチテーゼとも言える解決策を主人公に提示するのが、かつてのアイルズ作品であり、しかもナチェズものとして南部色の濃い『沈黙のゲーム』で主人公を勤めた作家ペン・ケージなのである。  そのペン・ケージは『沈黙のゲーム』でも感じられたことだが、ジョン・グリシャムを想起させるリーガル・サスペンス作家として本書でも登場している。一方であり得ないような超常現象のスリラーを主体としながら、もう一つのリアルな作品のキャラクターを重用し、ともすれば荒唐無稽に陥りがちな浮き舟にしっかり碇の固定を作家は与えるのである。  こんな設定でもこれだけ読み応えのある大人の小説を書けるだろう、とアイルズが言わんばかりの小説なのだ。プロットとしては、敢えて好きだとは言い難い。けれど、処理とプロセスとその技法に対して、大いに賞賛すべきであるところに、この作家、この作品の価値を見出したいと思う。 (2007/01/03)
*魔力の女 #amazon(4062752344,right,image) 題名:魔力の女 原題:Sleep No More (2002) 作者:グレッグ・アイルズ Greg Iles 訳者:雨沢 泰 発行:講談社文庫 2005.11.15 初刷 価格:\1,086  グレッグ・アイルズの小説としては、極めて異色だとしか言いようがない。歴史に材を取ったり、精緻なサイコ・スリラーを描いたりと、どれをとっても凝りに凝った仕掛けと精密なプロットで読者を唸らせてきた作家である。その彼が、たいへん自由度の高いテーマに手を出した。どちらかと言えばスティーヴン・キング系の「あれ」である。  ミシシッピ州ナチェズで石油試掘地点を投資家に助言する仕事をしている主人公ジョン・ウォーターズの前に、突然謎の美女が現れる。ナチェズの不動産会社を営むイヴ・サムナーである。彼女は徐々に接近を迫り、挙句に、自分はジョンの死んだ恋人マロリー・キャンドラーだと名乗る。そして当人たちだけが知りうる数々の過去記憶を告げてゆく。このあたりの異常な会話、主人公の動揺と、強烈な描写力に読者はまず嵌まるはずだ。  マロリーの過去生を知る全く他人である女の出現がまず不思議である。さらに物語は驚愕の展開を見せ、マロリーは次々と……。まるで飯田譲治『アナザヘヴン』で描かれた脳の捕食者のようである。そのエネルギーは、死んだマロリーのジョンへの未練であろう。まるで映画『危険な情事』の持つ悪夢性もが、主人公の一家を捉えてゆく。  いわゆる超現実的な現象が、ミシシッピの片田舎の極めて現実的な描写の中に緻密にリアルに埋め込まれてゆくのだ。極めてアンバランスと思われる両者を融合させるという離れ業を、アイルズの筆力がしっかりとやり遂げ、読者には今までにない種類のサスペンスを繰り広げてくれるわけだが、常に超常現象に対し、アンチテーゼとも言える解決策を主人公に提示するのが、かつてのアイルズ作品であり、しかもナチェズものとして南部色の濃い『沈黙のゲーム』で主人公を勤めた作家ペン・ケージなのである。  そのペン・ケージは『沈黙のゲーム』でも感じられたことだが、ジョン・グリシャムを想起させるリーガル・サスペンス作家として本書でも登場している。一方であり得ないような超常現象のスリラーを主体としながら、もう一つのリアルな作品のキャラクターを重用し、ともすれば荒唐無稽に陥りがちな浮き舟にしっかり碇の固定を作家は与えるのである。  こんな設定でもこれだけ読み応えのある大人の小説を書けるだろう、とアイルズが言わんばかりの小説なのだ。プロットとしては、敢えて好きだとは言い難い。けれど、処理とプロセスとその技法に対して、大いに賞賛すべきであるところに、この作家、この作品の価値を見出したいと思う。 (2007/01/03)

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