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*報復 #amazon(right,4041019613) 題名:報復 原題:Vengeance (2014) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:青木 創・国弘喜美代 発行:角川文庫 2015/12/25 初版 価格:\1480  ドン・ウィンズロウの作品は久しぶりだ。ブーン・ダニエルズのシリーズとベンとチョンとOのトリオのシリーズ、トレヴェニアンの『シブミ』続編『サトリ』と、あちこちのヒーロー、ヒロインを追いかけたかと思うと、どうやらそこに落ち着く様子もなく、『フランキー・マシーンの冬』以来となる単発作品の本書を、ここで『失踪』とともに同時二作発売という鮮度で、しかも母国USでは未発表のまま、ドイツに続いて日本での翻訳先行で出版という奇抜さで、この作家の奇行とも取れる創作行動は世界を驚かせている。  そして単発ながら、どちらもこれまでにない類いの内容を伴い、ウィンズロウという作家の彷徨の途上にあるらしい彼なりの才気と力量を存分に見せてくれる点でさらに圧巻の充実ぶりが読者にとっては何とも嬉しい限りであるのだ。  冒険小説という言葉が影を潜めている翻訳小説の世界の中で、今、改めて、ハードボイルドでもギャング小説でもない、正統派の冒険小説をひっさげてウィンズロウはぶらりの日本の読書会に久々に姿を見せてくれたのである。妻とひとり息子がテロの犠牲になった元デルタフォース隊員による復讐ドラマを淡々と綴る本書は、小説の詩人と異名を取っても構わないこの作家によって叙事詩のように小気味よく語られる。  冒険小説の王道である、仲間をかき集め、作戦を練り、闘うという『七人の侍』以来の基本パターン。それが数度繰り返され、仲間の中から犠牲者が出るたびに強くなってゆくチームの団結力と、その熱源ともなるべき怒りと正義感。裏切りを正当化してはばからない権力中枢の後ろ盾もないヒーローたちが、命を賭して闘いにの場に赴き、活劇を展開するこの構成とスケールと熱気。  久々に見る戦場は、確かにドラッグ戦争で描いた『犬の力』で培われたものであろうが、何よりも、テロへの怒りの父親の心情を仲間たちが共有してゆくその思い、プロフェッショナリズムという純然たるビジネスから人間ドラマに移行してゆく仲間たちの心の流れ、そうした血と脈拍の感じられる物語が、火器や弾幕という舞台装置の中で敵の心臓部に迫ってゆく躍動感が何よりも頼もしい。  骨太で容赦のないウィンズロウ節にさらに磨きがかかって感じられるのはぼくだけではあるまい。復活というよりも、継続を求めたくなる作家の筆頭である。近々『犬の力』の続編『カルテル』が刊行予定とのこと。どきどきする今日この頃である。 (2016.3.1)
*報復 #amazon(right,4041019613) 題名:報復 原題:Vengeance (2014) 作者:ドン・ウィンズロウ Don Winslow 訳者:青木 創・国弘喜美代 発行:角川文庫 2015/12/25 初版 価格:\1480  ドン・ウィンズロウの作品は久しぶりだ。ブーン・ダニエルズのシリーズとベンとチョンとOのトリオのシリーズ、トレヴェニアンの『シブミ』続編『サトリ』と、あちこちのヒーロー、ヒロインを追いかけたかと思うと、どうやらそこに落ち着く様子もなく、『フランキー・マシーンの冬』以来となる単発作品の本書を、ここで『失踪』とともに同時二作発売という鮮度で、しかも母国USでは未発表のまま、ドイツに続いて日本での翻訳先行で出版という奇抜さで、この作家の奇行とも取れる創作行動は世界を驚かせている。  そして単発ながら、どちらもこれまでにない類いの内容を伴い、ウィンズロウという作家の彷徨の途上にあるらしい彼なりの才気と力量を存分に見せてくれる点でさらに圧巻の充実ぶりが読者にとっては何とも嬉しい限りであるのだ。  冒険小説という言葉が影を潜めている翻訳小説の世界の中で、今、改めて、ハードボイルドでもギャング小説でもない、正統派の冒険小説をひっさげてウィンズロウはぶらりと日本の読書会に久々に姿を見せてくれたのである。妻と、ひとり息子とがテロの犠牲になった元デルタフォース隊員による復讐ドラマを淡々と綴る本書は、小説の詩人と異名を取っても構わないこの作家によって叙事詩のように小気味よく語られる。  冒険小説の王道である、仲間をかき集め、作戦を練り、闘うという『七人の侍』以来の基本パターン。それが数度繰り返され、仲間の中から犠牲者が出るたびに強くなってゆくチームの団結力と、その熱源ともなるべき怒りと正義感。裏切りを正当化してはばからない権力中枢の後ろ盾もないヒーローたちが、命を賭して闘いの場に赴き、活劇を展開するこの構成とスケールと熱気。  久々に見る戦場は、確かにドラッグ戦争で描いた『犬の力』で培われた経験によるところ大であろうが、何よりも、テロへの怒りに突き動かされる父親の心情を、仲間たちが共有してゆくその友情、そしてプロフェッショナリズムという純然たるビジネスから人間ドラマに移行してゆく仲間たちの心の流れ、そうした血と脈拍の感じられる物語こそが、火器や弾幕という舞台装置の中で敵の心臓部に迫ってゆく躍動感が何よりも頼もしい。  骨太で容赦のないウィンズロウ節も、さらに磨きがかかって感じられたのはぼくだけではあるまい。復活というよりも、充実の持続をこそ求めたくなる作家の筆頭である。近々『犬の力』の続編『カルテル』が春先には刊行予定とのこと。どきどきする今日この頃である。 (2016.3.1)

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