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*深紅の断片 警防課救命チーム 題名:深紅の断片 警防課救命チーム 作者:麻見和史 発行:講談社 2015.5.25 初版 価格:\1,500  海外ミステリーで見られるある種のラッシュ・パターンとしてのジェフリー・ディーヴァーリンカーン・ライムのシリーズや、ドナート・カッリージ『六人目の少女』を髣髴とさせるエスカレート型連続誘拐事件が本書の主軸である。  最初の少女の誘拐からして奇妙だった。監禁場所を告げる119番通報により物語はスタートする。  サブタイトルにある通り、本書の主役はとある消防署所属の警防課救命チーム。三人一組で出動する一台の救急車とその救急隊員たちが物語を通してずっと焦点を当てられてゆく。  ストーリー展開の面白さに加え、救命チームの活動が活写されてゆく点、複数負傷者の出る災害現場でのトリアージタッグを主たる小道具として効果的に使ってゆくアイディア、どれを取ってもコンパクトにまとまった一級のミステリと言っていい。  あまりスポットを当てられることのない縁の下のような世界で日夜活躍する救命隊の使命感や苦労がストーリーの中で明らかになってゆく点など、ミステリー界の新機軸と言っていいかもしれない。  救急救命士が活躍するTVドラマもあるにはあるが、プロットがここまで凝っていて、しかも救急現場の現実をストレートに読者に投げかけてゆく王道的なものは珍しいのではないか。  誘拐事件を次々と起こし、しかも手口がエスカレートしてゆく犯罪に対峙するにつれ、過去のトリアージ・ミスが問題になってゆき、生と死を分かつ災害現場の緊張と判断の重さとが俎板に乗せられ解体されてゆく。  救急救命士の誕生と救急車の高規格化という、救急医療の大きな過渡期に、そこに関わる医療機器関連においてぼくも長らく仕事をさせて頂いていたこともあり、この作品で書かれている救急現場のプロフェッショナルたちの日常・その使命感などが、共鳴して心の深部にまで入ってくる。訓練の場とは言え、生と死を判断するトリアージタッグに限りなく親しんできた日々が今も蘇る。  このような新しい現場をモチーフとして、新しい作品を、少しの緩みもないプロットで楽しませてくれた本書に出会えたことを、個人的にとても幸運に思う。 (2015.05.12)
*深紅の断片 警防課救命チーム 題名:深紅の断片 警防課救命チーム 作者:麻見和史 発行:講談社 2015.5.25 初版 価格:\1,500  海外ミステリーで見られるある種のラッシュ・パターンとして代表されるジェフリー・ディーヴァーはリンカーン・ライムのシリーズや、ドナート・カッリージ『六人目の少女』を髣髴とさせる、エスカレート型連続誘拐事件が本書のプロットの主軸である。  最初の少女の誘拐からして奇妙である。監禁場所を告げる119番通報により、物語はスタートする。110番ではなく、119番。しかも声を機械的に変えられた犯人からの通報である。何とも奇妙に連続誘拐事件は、その幕を開ける。  サブタイトルにある通り、本書の主役は、消防署所属の警防課救命チーム。三人一組で出動する一台の救急車と、その救急隊員たちが、物語を通してずっとフォーカスされてゆく。  展開するテンポの良さ、ツイストを重ねるストーリーの面白さに加え、救命チームの活動が活写されてゆくところや、複数負傷者の出る災害現場でのトリアージタッグを主たる小道具として効果的に使ったアイディアなど、どれを取っても新鮮味のある一級のミステリと言っていい。  普段はあまりスポットを当てられることのない縁の下の世界で、日夜活躍する救命隊の使命感や苦労が、ストーリーの中で明らかにされてゆく点に関しては、とりわけミステリーとしての新機軸と言っていいかもしれない。  救急救命士が活躍するTVドラマももちろんあるようだが、プロットがここまで凝ったもので、しかも救急現場の現実と問題とをストレートに読者に投げかけてゆく王道的な作品は珍しいのではないか。救急車の安易な利用、受け入れ病院のないたらいまわしの現状、組織のあり方、過労働などなど、本書一冊でも様々な救急現場の持つストレスが描かれているように思う。  さて問題の連続誘拐事件であるが、難しい誘拐と言う犯罪が次々と発生し、しかも手口は次々とヒートアップしてゆく。そうした困難な事件と対峙するにつれ、過去の大規模交通災害でのトリアージ・ミスが明らかになってゆく。そこでは生と死を分かつ災害現場の緊張と判断の重さとが俎板に乗せられ解体されてゆく。トリアージという名の神のような判断を司る従事者の心の問題さえも。  救急救命士の誕生と救急車の高規格化という、日本救急医療にとっては大きな過渡期に当たる時代、そこに関わる医療機器関連において、ぼくも長らく仕事をさせて頂いていたことがあり、この作品で書かれている救急現場のプロフェッショナルたちの日常やその使命感などが、心に共鳴し、体験的に深部にまで入ってくる。訓練の場とは言え、生と死を判断するトリアージタッグにも限りなく親しんできた日々が今も蘇る。  このような珍しい現場をモチーフとして、新鮮な作品を、少しの緩みもないプロットで楽しませてくれた本書に出会えたことを、個人的にとても幸運に思っている。 (2015.05.12)

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