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*エス
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題名:エス
作者:鈴木光司
発行:角川書店 2012.5.15 初版
価格:\1,500
またリング・シリーズかと、あまり期待を抱かずに手に取る。なるほど、また原点回帰のような、呪いの動画めいた物語かと思うとそうでもない。見せておいて、怖がらせながら、決定打にはなりきれないアイディアである。
宮崎勤事件を思わせる戦後最大の連続少女誘拐殺害事件という(内容は宮崎事件とは全然異なる)社会騒動にまでなったできごとをアイディアのネタとして絡ませてもいる。作者は意欲的に本作に取り組んだのだと思う。
リング・シリーズ全体を振り返るシーンも挿まれている。全体の時系列や登場人物が整理されたり、ああ、そういればそういうこともあったなと記憶を甦させてくれるので有難い。
『リング』からもう四半世紀になるのか。作中で『リング』という本がノンフィクションとして出版されたことになっている。映画化は現実と違って作中では中止させられたらしい。映画化によってリングは別の次元に拡がってしまった印象は拭えないから、小説世界ではそれらが否定されても致し方ないのかもしれない。
それにしてもフィルターのかかったようなこの小説はなんなのだろう。少しも気持ちが小説に入ってゆかない。かつて熱中して読み、怖さに震えたシリーズでありながら、四半世紀という時がもたらしたものなのか、この新しいシリーズ作品の存在が上記に挙げるだけ読みどころはあるかに見えるにも関わらず、少しも文章に集中できない。
常に網膜に曇がかかったような状態でしかこの本を読み進めることができなかったのだ。文章は巧い。論理的である。興味をくすぐる章も少なくない。アイディアにも感服する。ムードも悪くない。しかし、それでも、流れは読者としてのぼくの傍らを自動的に通り過ぎてしまう。目的の電車に乗りそびれた乗客のように、ホームから去りゆく電車の最後部をぼうっと眺めている印象なのだ。
所詮、おどろおどろしい物語の、何でもありという小説手法に、僕はきっとついて行けなかったのだと思う。思念がビデオに乗り移ったり、幽霊が子孫を残したり、孕ませたり、といった強引な力技が引っかかってたまらなかったのだと思う。きっと、この分だと、ぼくにはもうホラーは無理である。
(2015.01.10)