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*鍵のない夢を見る #amazon(right,4163813509) 題名:鍵のない夢を見る 作者:辻村深月 発行:文藝春秋 2014.09.25 初版 価格:\1,400  この本が直木賞を取った、という意識が全然なければ、ぼくはこの本を手に取ることすらなかっただろう。6年前に『ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ』という不思議な感触の残る本を読んだので、この作家への意識は何となく持っていたのだが、敢えてこの短編集を手に取ることは、受賞作というネイムがついてなければ、その機会がぼくにはなかったような気がする。  そして、読んでみて、あれ、こんなだったか? と戸惑う。短編は長編とは多くの場合味わい肩が異なってくるし、同じ作家とは思えないような作りにどぎまぎしたりすることも少なくない。しかし、本書を手にとったのは、6年ぶりの辻村深月体験であるし、6年前だってたった一冊の本しか読んでいない、ぼくは言わばいい読者じゃないのである。多くの違和感は作者の側ではなく、きっとぼくの側に存在する、はず。  泥棒・放火・逃亡・殺人・誘拐などなど五つの犯罪テーマで書かれた作品集だが、ミステリという範疇に全然収まらないのは、作者の発想の広さゆえだろう。若い作家というのはいいな、定義がなくって、くらいの大らかなる気持ちで対するとちょうどいいくらいの感触であって、直木賞受賞作という堅苦しい手応えを求めようとすると、きっとしっぺ返しを喰らう、だろう。  それにしても女性の目線で書かれた男たちとは何と奇妙な存在なのだろうか。特に、成長の著しく遅く見える大学生の青年、暴力でしか会話のできない殺人者の若者、二人とも人間として不完全であることのほうが、性のどちらかよりも目立つように思える。女性の捉える男性が男性読者にはわからないから、異様性が濃縮されて、そういう男たちと離れることができずにくっついて歩いている女たちはより異様で理解しがたい存在に見える。  もちろん、最後にはそれらは清潔なロジックのようなラストシーンでどちらも解決を見るわけだけれども、最も奇妙なロードムービーを見るような小説の語り口にぼくらはとことん騙される。  軽いイメージだけで作られた若書きの手ごね作業のような短編集にしか見えないのだが、逆に、若くなくてはここまで既成概念にとらわれない発想の豊饒さは得られないものなのかもしれない。直木賞受賞作という言葉がいつまでも似合わない作品集であっていいし、そういう作家であり続けていて欲しい、なんとなくそんな気がする。 (2015.01.08)
*鍵のない夢を見る #amazon(right,4163813500) 題名:鍵のない夢を見る 作者:辻村深月 発行:文藝春秋 2014.09.25 初版 価格:\1,400  この本が直木賞を取った、という意識が全然なければ、ぼくはこの本を手に取ることすらなかっただろう。6年前に『ゼロ・ハチ・ゼロ・ナナ』という不思議な感触の残る本を読んだので、この作家への意識は何となく持っていたのだが、敢えてこの短編集を手に取ることは、受賞作というネイムがついてなければ、その機会がぼくにはなかったような気がする。  そして、読んでみて、あれ、こんなだったか? と戸惑う。短編は長編とは多くの場合味わい肩が異なってくるし、同じ作家とは思えないような作りにどぎまぎしたりすることも少なくない。しかし、本書を手にとったのは、6年ぶりの辻村深月体験であるし、6年前だってたった一冊の本しか読んでいない、ぼくは言わばいい読者じゃないのである。多くの違和感は作者の側ではなく、きっとぼくの側に存在する、はず。  泥棒・放火・逃亡・殺人・誘拐などなど五つの犯罪テーマで書かれた作品集だが、ミステリという範疇に全然収まらないのは、作者の発想の広さゆえだろう。若い作家というのはいいな、定義がなくって、くらいの大らかなる気持ちで対するとちょうどいいくらいの感触であって、直木賞受賞作という堅苦しい手応えを求めようとすると、きっとしっぺ返しを喰らう、だろう。  それにしても女性の目線で書かれた男たちとは何と奇妙な存在なのだろうか。特に、成長の著しく遅く見える大学生の青年、暴力でしか会話のできない殺人者の若者、二人とも人間として不完全であることのほうが、性のどちらかよりも目立つように思える。女性の捉える男性が男性読者にはわからないから、異様性が濃縮されて、そういう男たちと離れることができずにくっついて歩いている女たちはより異様で理解しがたい存在に見える。  もちろん、最後にはそれらは清潔なロジックのようなラストシーンでどちらも解決を見るわけだけれども、最も奇妙なロードムービーを見るような小説の語り口にぼくらはとことん騙される。  軽いイメージだけで作られた若書きの手ごね作業のような短編集にしか見えないのだが、逆に、若くなくてはここまで既成概念にとらわれない発想の豊饒さは得られないものなのかもしれない。直木賞受賞作という言葉がいつまでも似合わない作品集であっていいし、そういう作家であり続けていて欲しい、なんとなくそんな気がする。 (2015.01.08)

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