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*地層捜査 #amazon(right,4163811508) 題名:地層捜査 作者:佐々木譲 発行:文藝春秋 2012.2.25 初版 価格:\1,600  佐々木譲は、警察小説に活路を見出し、今や、次々と個性的な警察官を世に送り出している。『うたう警官(文庫化時なぜかスウェーデンの名作シリーズの雄編と同じ『笑う警官』に改題)』では、道警裏金問題を内部から抉る正義の警察官たちの一団を描き、『制服捜査』では道警裏金不祥事の煽りを食って十勝の駐在警察官になった元刑事の活躍を描く。『廃墟に乞う』では心的外傷後ストレス障害を煩っている休職中の刑事の活躍を。そして本書ではまた新たなアイディアへの取り組みを見せるのである。  本書は、今流行りと言っていいだろう、コールドケースを扱う特別捜査官の活躍を描く。殺人の時効が廃止されたこと、科学捜査の進歩による再捜査の意味が認められていることから、過去の未解決犯罪を掘り起こして再捜査するチームがここに出現する。正直なところもう少し主人公の境遇にパンチが欲しかったのだが、とりあえず上司に逆らって謹慎中であるという反骨の刑事・水戸部を主人公に据えているところが佐々木譲らしい。  こちらの舞台は、四谷荒木町。かつての花街に起こった古い事件を調査するのは、謹慎から復帰させられた水戸部刑事と、かつてその事件を捜査した加納という退職刑事との二人だけ。警察という組織が形だけとりつくろったような捜査部門作りである。そうした組織に対して、個が意地を見せるというのも、何となく佐々木譲の構図である。西部劇スタイルの蝦夷荒野節を唸るこの作家の正義感の面目躍如たる設定で物語は走り出す。  過去の事件を掘り起こす捜査をどう描くかというところが小説の要となる部分であると思うが、毎日の水戸部と加納のやりとり、業務分担してゆきながら、お互いの性格や度量を測ってゆく様子などが、男の世界という空気で、なかなかに人間臭く、興味深い。荒木町に生きる人々の精一杯の様子が、街の歴史を掘り起こすことによって描かれるあたりも実にいい。  加納の動きが最後にはこの物語の肝になるのだが、最後までこの加納という老刑事と若い水戸部との人間臭い交流や距離感が本書の読ませどころとなって、なかなかに渋く、そして哀感溢れる情緒的な作品となっている。『地層捜査』という不思議なタイトルがいつの間にかこの捜査にしっくり合って見えてくるのも、この小説の視点、切口など、個性的で新鮮であるところに結局は落ち着いてゆくのか。  シリーズとしてどう定着させるかは、難しいところだと思うが、北海道警察小説の雄と見られる傍ら、この作家は警官三部作で東京を背景に傑作を書いてもいる。是非とも期待したいところである。 (2014.1.23)
*地層捜査 #amazon(right,4163811508) 題名:地層捜査 作者:佐々木譲 発行:文藝春秋 2012.2.25 初版 価格:\1,600  佐々木譲は、警察小説に活路を見出し、今や、次々と個性的な警察官を世に送り出している。『うたう警官(文庫化時なぜかスウェーデンの名作シリーズの雄編と同じ『笑う警官』に改題)』では、道警裏金問題を内部から抉る正義の警察官たちの一団を描き、『制服捜査』では道警裏金不祥事の煽りを食って十勝の駐在警察官になった元刑事の活躍を描く。『廃墟に乞う』では心的外傷後ストレス障害を煩っている休職中の刑事の活躍を。そして本書ではまた新たなアイディアへの取り組みを見せるのである。  本書は、今流行りと言っていいだろう、コールドケースを扱う特別捜査官の活躍を描く。殺人の時効が廃止されたこと、科学捜査の進歩による再捜査の意味が認められていることから、過去の未解決犯罪を掘り起こして再捜査するチームがここに出現する。正直なところもう少し主人公の境遇にパンチが欲しかったのだが、とりあえず上司に逆らって謹慎中であるという反骨の刑事・水戸部を主人公に据えているところが佐々木譲らしい。  こちらの舞台は、四谷荒木町。かつての花街に起こった古い事件を調査するのは、謹慎から復帰させられた水戸部刑事と、かつてその事件を捜査した加納という退職刑事との二人だけ。警察という組織が形だけとりつくろったような捜査部門作りである。そうした組織に対して、個が意地を見せるというのも、何となく佐々木譲の構図である。西部劇スタイルの蝦夷荒野節を唸るこの作家の正義感の面目躍如たる設定で物語は走り出す。  過去の事件を掘り起こす捜査をどう描くかというところが小説の要となる部分であると思うが、毎日の水戸部と加納のやりとり、業務分担してゆきながら、お互いの性格や度量を測ってゆく様子などが、男の世界という空気で、なかなかに人間臭く、興味深い。荒木町に生きる人々の精一杯の様子が、街の歴史を掘り起こすことによって描かれるあたりも実にいい。  加納の動きが最後にはこの物語の肝になるのだが、最後までこの加納という老刑事と若い水戸部との人間臭い交流や距離感が本書の読ませどころとなって、なかなかに渋く、そして哀感溢れる情緒的な作品となっている。『地層捜査』という不思議なタイトルがいつの間にかこの捜査にしっくり合って見えてくるのも、この小説の視点、切口など、個性的で新鮮であるところに結局は落ち着いてゆくのか。  シリーズとしてどう定着させるかは、難しいところだと思うが、北海道警察小説の雄と見られる傍ら、この作家は警官三部作で東京を背景に傑作を書いてもいる。是非とも期待したいところである。 (2014.1.23)

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